研究実績の概要 |
これまでにVCPのATPase活性を阻害することにより高脂肪食による視床下部での小胞体(ER)ストレスおよびレプチン抵抗性の誘導がマウスにおいて抑制されることを見出してきた。VCPのATPase活性阻害により視床下部ATP濃度が上昇することから、視床下部におけるATP濃度がERストレスやレプチン感受性に重要であることが示唆される。 そこで、βヒドロキシ酪酸の前駆体である1,3-ブタンジオール(BD)を用いて血中ケトン体および視床下部ATP濃度を上昇させた時の体重や摂食量、視床下部におけるERストレスやレプチン感受性を高脂肪食負荷マウスやob/obマウスを用いて検討した。1,3-BDの経口投与により高脂肪食負荷マウスの体重および摂食量は減少が認められた。次に、1,3-BDの体重減少作用がレプチン系を介した作用であることを検証するために遺伝性レプチン欠損マウスであるob/obマウスに1,3-BDを投与したところ、体重および摂食量に明らかな変化は認められなかった。1,3-BDはレプチンの作用増強を介して体重および摂食量を減少させていると考えられた。視床下部におけるCHOPやリン酸化PERKなどのERストレスマーカーの発現を検討したところ、高脂肪食負荷マウスおよびob/obマウスでは対照マウスと比較してERストレスマーカーの発現が亢進しており、1,3-BD投与によりその発現が抑制されることが明らかとなった。この時、高脂肪食負荷マウスの視床下部において減弱していたレプチン のシグナル分子STAT3のリン酸化が1,3-BD投与により増強されることも確認された。以上より、血中ケトン体および視床下部ATP濃度を上昇させる1,3-BDは視床下部におけるERストレスおよびレプチン抵抗性を抑制することにより体重および摂食量を減少させることが明らかとなった。
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