研究課題/領域番号 |
17K09846
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
荻原 健 順天堂大学, 医学部, 准教授 (60399772)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Pbk / β細胞 / 妊娠 / サイクリンB1 / p53 |
研究実績の概要 |
妊娠期には胎盤ホルモンの影響によりインスリン抵抗性が増大するが、インスリンを分泌する膵β細胞が代償性に増殖し、インスリン分泌量を増加させることで糖代謝の恒常性が維持される。我々は、妊娠マウスと非妊娠マウスから膵島を採取し、マイクロアレイ法を用いて遺伝子発現を網羅的に解析した結果、マウス膵島においてリン酸化酵素PDZ binding kinase (Pbk)の発現が妊娠応答性に増加することを見出した。Pbkは、白血病細胞・大腸癌・肺癌などに高発現すると報告され、細胞周期に介入し、腫瘍増殖に関与すると考えられている。以上より、我々はPbkが妊娠期のβ細胞増殖に関与するとの仮説を立て、検証した。 β細胞腫瘍株であるMIN6細胞において、RNA干渉法を用いてPbk発現を抑制し、BrdU取り込み率で増殖能を評価した結果、Pbkノックダウン群において細胞増殖が抑制された。すなわち、β細胞においてもPbkが細胞増殖に関与する可能性が示唆された。既報では、Pbkがp53の抑制を介して、p21の発現を低下させ、細胞周期を促進すると報告されている。MIN6細胞においてPbkのノックダウンに伴いp53の蛋白量が増加し、更に、Pbk阻害薬負荷によるp53の蛋白量増加も確認した。しかし、Pbkノックダウン群において、p21の発現増加は確認できず、Pbkによるβ細胞増殖作用は、p21非依存性であることが示唆された。 Pbkの標的を探索するために、細胞周期に関与する遺伝子の発現を定量的RT-PCR法で評価した。その結果、Pbkノックダウン群において、Ccna2、Ccnb1、Ccnb2、Ccnd2等の発現低下を確認した。次いで、マウス単離膵島にアデノウイルスベクターを用いてPbkを過剰発現したところ、Ccnb1の発現が増加した。以上の結果から、PbkがCcnb1を介してβ細胞増殖に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
癌細胞において、Pbkが腫瘍増殖に関与することは多数の報告があるが、Pbkのβ細胞増殖への関与を報告したのは、当研究が初めてである。RNA干渉法もしくは薬剤投与によるPbkの抑制が、p53の蛋白量増加を促すことは既報に合致するが、p53の標的遺伝子であるp21の発現増加を伴わなかったことから、β細胞におけるPbkの細胞増殖作用は既知のメカニズムでは説明できなかった。引き続き解析を進めた結果、PbkがCcnb1の発現上昇に作用することを確認した。すなわち、Pbkの細胞増殖作用に関する新規メカニズムの一端を明らかにした。本研究の仮説は「Pbkが妊娠期のβ細胞増殖に関与する。」であり、我々の検証により、Pbkがβ細胞増殖に関与すること、および、そのメカニズムの一部を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、Pbkによる妊娠期のβ細胞増殖への関与を示唆する結果を得た。ただし、そのメカニズムの詳細は未解明である。まずは、既報と照らし合わせ、PbkがCcnb1の発現を促進するメカニズムを明らかにする。また、Pbkが他の標的を介して、細胞周期を制御している可能性は否定できない。Pbkが、p53の蛋白量を調整することは既報と一致する結果であり、p53は様々な細胞伝達経路の要であることから、それら下流経路の解析を順次、進める方針である。 膵島およびMIN6細胞を用いた予備的検討において、Pbkがエストラジオール依存性に発現が増加することを我々は見出している。マウスPbkのプロモーター領域のクローニングは施行済みであり、今後、その解析を通じて、β細胞におけるPbkの発現調節機構を明らかにしていく。 以上の実験を通じて、Pbkによるβ細胞の増殖機構を解明し、次いで、マウスの妊娠モデルにPbk阻害薬を投与し、それらマウスの膵島を解析することで更なる仮説の検証を行う。
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