妊娠期にはインスリン抵抗性に応じて、インスリンを分泌する膵β細胞が代償性に増殖し、インスリン分泌量が増加する。PDZ binding kinase(Pbk)は癌細胞の増殖に関与することが報告されているが、Pbkが妊娠マウスの膵島において発現が増加することを我々は見出した。本研究では、β細胞におけるPbkの役割とそのメカニズムを検証した。β細胞株にてPbkをノックダウンしたところ、BrdU取り込み率が低下し、細胞増殖の抑制が示唆された。PbkノックダウンあるいはPbk阻害薬を用いてPbkを抑制した結果、既報と同様にp53の蛋白量が低下した。ただし、p21の発現増加は確認できなかった。すなわち、Pbkによるβ細胞増殖作用は、癌細胞の研究で得られた知見をは異なり、p21非依存性であることが示唆された。 Pbkの標的を探索するために、細胞周期に関与する遺伝子の発現を定量的RT-PCR法で評価した。その結果、Pbkノックダウン群において、Ccna2、Ccnb1、Ccnb2、Ccnd2等の発現低下を確認した。次いで、マウス単離膵島にアデノウイルスベクターを用いてPbkを過剰発現したところ、Ccnb1の発現が増加した。 次に、Pbkがβ細胞において妊娠時に発現が増加することから、単離膵島を各種妊娠ホルモンで刺激し、Pbkの発現を定量的RT-PCR法で評価した。Pbkは、プロゲステロン、プロラクチン、HCGには反応せず、エストラジオール刺激で発現が上昇した。また、β細胞株でもエストラジオール応答性にPbk発現増加を確認した。以上の結果から、妊娠期にPbkはエストラジオール応答性に発現が増加し、Ccnb1を介してβ細胞増殖に関与する可能性が示唆された。
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