研究課題
1型糖尿病は膵島特異的T細胞による膵β細胞の破壊を主因とする自己免疫疾患とされているが、ヒトにおいて責任抗原や誘発される細胞性免疫反応については未解明な点が多く、本研究では、日本人1型糖尿病の3病型(急性発症・劇症・緩徐進行性)における膵島抗原特異的T細胞を網羅的に解析することで各病型における膵島抗原特異的細胞性免疫の関与を明らかにし、その反応を制御するテーラーメイド制御性T細胞誘導法を探索することを目的とする。急性発症1型糖尿病(AT1D):20例、緩徐進行1型糖尿病(SP1D):17例、劇症1型糖尿病(FT1D):18例、健常コントロール(ND):17例の各患者より単離したPBMCを、CD4陽性T細胞を標的としGAD65、PPI、IGRP、ZnT8の各膵島抗原ペプチドで刺激し、培養上清中のサイトカイン/ケモカインを測定した。すると、ND群に比べてAT1D群やFT1D群ではユニークなサイトカイン/ケモカイン分泌パターンを認めていた。抗原特異的T細胞を同定する目的で、細胞をIL-2存在下に追加培養し、細胞内サイトカイン染色を行った上で、フローサイトメトリーにて解析を行った。すると、AT1D群における抗原特異的Th1発現やFT1D群におけるTr1反応の欠落などの知見が得られ、SP1D群ではTh2の発現亢進を誘導する膵島抗原も同定された。また、引き続き、CD8陽性T細胞を標的とした各膵島抗原ペプチドで刺激し、同様のアッセイを行った。すると、AT1D群、FT1D群でのみ、抗原特異的CD8陽性T細胞の有意な活性化がみられ、その反応はFT1D群で最も強かった。これらの病型別の細胞性免疫反応の差異を示した既報はなく、今後、1型糖尿病の主因である自己免疫を制御する方法を検討するにあったては非常に重要なデータである。今後はこれらのデータを集約し、免疫制御法の開発を試みる予定である。
3: やや遅れている
当初の計画では、平成29年度~30年度にかけて、検体の収集と膵島抗原特異的CD4陽性T細胞および同CD8陽性T細胞の解析を完了する予定であった。現時点でおおよその目標症例数のリクルートおよび検体収集もほぼ終えており、CD4陽性T細胞の解析も完了しているが、CD8陽性T細胞の解析が完了していない症例がわずかながら残存している。また、当初の計画では、これらの解析データを基盤とした自家樹状細胞によるテーラーメイド制御性T細胞の制御に関する手技を平成30年度後半に開始する予定であったが、次年度へ持ち越しとなっている。以上より、進捗状況は当初の研究計画よりやや遅れていると判断した。今後は、T細胞解析を速やかに完了させ、免疫制御法の開発に取り掛かかる見込みである。
今後は、収集したPBMCを用いて、(1)1型糖尿病の各病型(急性発症・緩徐進行・劇症)および健常人における、膵島抗原特異的CD8陽性T細胞反応の解析の完了、(2)各患者の責任抗原で教育した自家樹状細胞を用いてその反応を制御するテーラーメイド制御性T細胞誘導法の試み、の順で研究を推進していく。(1)については、現時点で、急性発症1型糖尿病や劇症1型糖尿病では、健常人や緩徐進行1型糖尿病では見られないような特異的なCD8陽性T細胞反応がみられている。このような既報はなく、この解析を完了させることで病型別の細胞性自己免疫の関与に関する新しい知見が得られるもとの推測される。(2)に関しては、患者由来のCD14陽性単球からIL-4やG-CSFなどを用いて樹状細胞を作成する培養系、樹状細胞を各1型糖尿病症患者で同定された責任膵島抗原で教育し、制御性サイトカイン等を用いて制御性樹状細胞を作成する培養系、制御性樹状細胞で同一患者のCD4陽性T細胞を刺激する培養系の確立を行い、各患者別のテイラーメイド免疫制御法(制御性T細胞の誘導)の開発を進めていく。1型糖尿病の3病型において本解析を行うことで、各病型における自己免疫の活動性を明らかにすることができると期待する。1型糖尿病は病期が進むにつれ膵島が消失し、重度の高・低血糖を来すようになる。膵・膵島移植後の自己免疫再発も克服すべき重要課題である。本研究が膵島の破壊を食い止められるような免疫細胞療法の開発に繋がれば、発症時や膵島移植後の患者QOLを劇的に改善するばかりか、根治への第一歩ともなり得ると期待される。
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Journal of Diabetes Investigation
巻: 10 ページ: 1108~1111
10.1111/jdi.12997