本研究はストレス応答経路の一つである統合的ストレス応答経路の脂肪細胞における役割の解明と肥満や糖尿病への治療標的としての意義を見出すことを目的とする。 昨年度までに脂肪細胞において任意の時期にストレスを生ずることなく統合的ストレス応答経路を活性化できるトランスジェニックマウスを用いて解析した結果、脂肪細胞での統合的ストレス応答活性化は摂食抑制因子の発現上昇を介して摂食行動を調節していることを明らかにした。本年度は、統合的ストレス応答による摂食制御因子の発現制御機構について検討を行った。その結果、統合的ストレス応答で発現上昇することが知られている転写因子ATF4とCHOPが摂食制御因子のプロモーターに直接結合しており、結合配列をCRISPR/Cas9を用いて欠損させると発現上昇が失われたことからATF4とCHOPが直接に摂食制御因子の発現を誘導していることを明らかにした。また、CRISPR/Cas9を用いて摂食制御因子の受容体を欠損させたマウスを作成し、トランスジェニックマウスを交配させた。トランスジェニックマウスでは統合ストレス応答を活性化させると高脂肪食の摂食量が低下するのに対して受容体を欠損させたトランスジェニックマウスでは低下作用が消失した。また、高脂肪食で肥満を誘導したトランスジェニックマウスにおける統合ストレス応答活性化による肥満改善作用も受容体の欠損によって消失した。 以上のことから脂肪細胞での統合ストレス応答活性化は、転写因子ATF4とCHOPを介して摂食制御因子の発現を誘導して抗肥満作用を持つことを明らかにした。
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