研究課題
閉経後乳癌治療の中心となっているアロマターゼ阻害剤(AI)が臨床に導入され十数年が経過し、近年ではその再発や耐性を克服するための新規分子標的治療薬が次々と開発されている。これまで我々はERE-GFP導入ER陽性乳癌細胞から樹立した各種AI耐性モデル細胞の研究から、細胞内エストロゲンシグナル経路の変化による複数の耐性機序の存在を明らかにした。そこで、樹立した各種耐性株を活用して、乳癌がその進行とともにどのような可塑性を獲得し、シグナル経路を変化させていくのか明らかにし、乳癌の進展や治療耐性獲得のメカニズム解明を目指す。樹立した6種のAI耐性細胞のうち、これまでの研究結果からPIK/Akt/mTOR経路の活性化が顕著にみられるType1細胞(ER陽性)とType2細胞(ER陰性)に対して最近臨床で使用可能となったmTOR阻害剤、エベロリムスの効果を検討した。その結果、Type1細胞に対してはin vitro及び、マウスに移植したxenograftの実験系において、効果的にその増殖、腫瘍形成を抑制することが示された。しかもそれは親株であるMCF-7-E10細胞よりも強く抑制した。このことはType1細胞の増殖・生存のドライバーシグナルが親株に比して、PI3K/Akt/mTOR経路により強く依存するようになったことを示唆している。Type2細胞に対しても同様の結果であった。そこで、次にこれらの細胞株にエベロリムスを長期暴露し、エベロリムス耐性細胞を作製した。その結果、MAPKの強いリン酸化を認め、MAP経路の亢進が示唆された。MEK阻害剤の添加によりその細胞増殖が阻害されたことから、PI3K/Akt/mTOR経路長期的遮断はMAPK経路へのドライバーシグナルのシフトを引き起こすことが推察された。さらに上記Type1細胞、Type2細胞へ、将来臨床への導入が予定されているPI3K阻害剤の効果を検証した。その結果、汎阻害剤を用いた場合とp110αサブユニット特異的阻害剤を用いた場合に、その効果の違いがみられた。
2: おおむね順調に進展している
概要で述べたように、交付申請書に記載した研究計画の29年度実施予定の大部分を達成し、ホルモン療法耐性によってドライバーpathwayがエストロゲンシグナル経路から細胞内リン酸化経路へシフトすること、さらには分子標的薬(エベロリムス)耐性獲得によってリン酸化シグナル経路も他の経路へシフトすることも観察された。
今後、臨床応用が期待されているPI3K阻害剤と細胞周期を標的としたCDK4/6阻害剤についてそれぞれホルモン療法耐性細胞での作用、それらの薬剤の耐性メカニズムについて検討を行って行きたい。これらの観察から乳癌細胞のドライバーシグナルの可塑性の全容を明らかにしたい。
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Breast Cancer
巻: - ページ: -
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