研究課題
遺伝性腫瘍症候群である多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1型)の原因遺伝子MEN1は癌抑制遺伝子とされるが、翻訳蛋白meninの詳細な機能は不明である。私達は耐糖能におけるmeninの機能に着目した研究の過程で、骨格筋におけるmeninの機能に着目して研究を進めた。昨年度までにMen1ヘテロ欠失マウス(Men1+/-)、野生型マウス (WT)を用いての解析で、膵組織では18週齢で既にラ氏島細胞の異形成を認めること、骨格筋は2群間で形態学的には明らかな差異を認めないこと、12-18週齢までのMen1+/-とWTでは糖代謝試験の結果が週齢によって異なること、15週齢のMen1+/-とWTから摘出したヒラメ筋、長指伸筋より抽出したRNAを用いてのcDNAマイクロアレイ解析ではMen1+/-ではNotch signaling 関連、Glycolysis関連、Glucogenesis関連遺伝子群に変動遺伝子が多くmeninが骨格筋における糖代謝機構に関連していることが示唆された。またC2C12筋芽細胞株を骨格筋細胞に分化させる過程でmenin発現量が変動することをウェスタンブロット法、qPCR法にて確認した。更に、筋芽細胞から骨格筋細胞への分化過程で、抗menin抗体を用いて蛍光顕微鏡で観察したところmeninの局在発現が変化することが判明した。またインスリン投与後に、マウスより骨格筋を単離し、抽出した蛋白を用いてのウェスタン解析では、糖代謝関連の複数の蛋白の発現量は2群間で差異があった。またC2C12筋芽細胞株を用いて、筋芽細胞を骨格筋細胞に分化させる過程で、siRNA法にてmeninをノックダウンし2-デオキシグルコース代謝速度の測定をした結果、meninの欠失で糖取り込みが低下することが判明した。
2: おおむね順調に進展している
私達は当初、Men1+/-マウスと野生型マウスを用いてのin-vivo でのグルコース負荷試験や、他のグループの既報からMEN1遺伝子の翻訳蛋白であるmeninが減少、欠落した状態が耐糖能の観点からは有利に働いているという仮説の元、骨格筋におけるmeninの耐糖能に関する機能解析を進めてきた。しかし当初の仮説とは逆に、骨格筋においては筋芽細胞から骨格筋細胞に分化する過程でmeninの発現量が変動し、かつmeninが減少した状態では骨格筋における糖取り込みが低下するという知見を得た。これまでmeninは癌抑制蛋白と捉えらており、下垂体、膵内分泌腺、副甲状腺といった標的組織での腫瘍抑制機能の観点から研究がなされてきたが、私達の研究成果からmeninの全く新しい機能を同定することができたため。
筋芽細胞から骨格筋細胞への分化過程で、meninの発現量が変動していることが明らかとなったため、分化の種々の過程でmeninをノックダウン、もしくは過剰発現させて形態的な観察を行うとともに、種々の過程でRNA, タンパク質を抽出してmeninの発現に依存している新たな筋分化関連因子の同定を進める。同様にmeninの骨格筋細胞における糖取り込みに関連する機構解析については骨格筋特異的Men1ホモ欠損マウスを作成し、モデルマウスとしてin-vivoでの耐糖能解析を進めていく。
筋芽細胞から骨格筋細胞への分化過程で、meninの発現量が変動していることが明らかとなったため、分化の種々の過程でmeninをノックダウン、もしくは過剰発現させて形態的な観察を行うとともに、種々の過程でRNA, タンパク質を抽出してmeninの発現に依存している新たな筋分化関連因子の同定を進めるための、研究費として使用。
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