研究課題/領域番号 |
17K09877
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
出村 昌史 金沢大学, 医学系, 准教授 (00507080)
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研究分担者 |
西條 清史 金沢大学, 医学系, 教授 (00178469)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 原発性アルドステロン症 / 自己抗体 |
研究実績の概要 |
原発性アルドステロン症は片側あるいは両側の副腎からのアルドステロン過剰分泌をきたす。二次性高血圧の中で最も頻度が高く(高血圧患者の5-10%)、治療抵抗性高血圧の主要因であり、心血管合併症を高率(本態性高血圧の3倍)に発症する。60-80%の原発性アルドステロン症が両側性過剰分泌であると判明しているが、両側性過剰分泌の原因には不明な点が多く、その原因が特定できる患者はほとんどいない。そんな中、原発性アルドステロン症の中に、アルドステロン過剰分泌が自然緩解する症例が少なからず存在することを見出した。 この現象が自己抗体によるという仮説を立て、検討を進めた。副腎静脈サンプリングで両側性原発性アルドステロン症と診断された症例19例のIgGを副腎皮質培養細胞H295Rに添加したところ、健常者や片側性原発性アルドステロン症患者のIgGよりもアルドステロン合成酵素CYP11B2の遺伝子発現を増加させる症例(12例、63%)が高率に見出された。原発性アルドステロン症患者24例のうち、半数の12例にCYP11B2刺激性IgGを認めたことから、自己免疫性原発性アルドステロン症患者数は、107.5-215万人(高血圧患者の2.5-5%)と非常に多いと推定された。 さらに、血清より抽出したIgGとH295Rのタンパク抽出物との免疫沈降解析により、健常者や片側性原発性アルドステロン症には認められず、CYP11B2刺激性IgG症例のみに認められた16種の自己抗原タンパクを同定した(特願2018-202619)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遺伝学的検討から、(先天性および後天性)原発性アルドステロン症の原因はイオンチャンネルやポンプの変異に関連した細胞内Ca流入の増加と判明している。同定した16種の自己抗原は、すべてイオンチャンネルやポンプであった。さらに、そのうちの6種の自己抗原は、原発性アルドステロン症の原因遺伝子のアイソフォームやファミリーであった。これらの事実から、“原発性アルドステロン症の原因は、遺伝子変異や自己抗体によるイオンチャンネルやポンプの機能異常”と考えられる。 同定した16種の自己抗原および、原因遺伝子として知られる6種の膜タンパク(イオンチャンネルやポンプ)を搭載したプロトタイプのプロテインアレイを作製を試みた。予備的検討で、まず3種類の自己抗原タンパクを固相化したELISAプレートを作製したが、自己抗体は検出できないことが判明した。 自己免疫性原発性アルドステロン症はバセドウ病と同様に膜タンパクと自己抗体の相互作用によるV型アレルギーと考えられる。すなわち、V型アレルギーの自己抗体は、膜に埋まった状態の膜タンパクと相互作用すると考えられる。このため、リン脂質小胞であるリポソームに膜タンパク質を再構成したプロテオリポソームと自己抗体の相互作用を検討することにした。 現在、この評価系に実績のある研究機関と共同研究を開始した。無細胞タンパク質生産技術を利用したプロテオリポソームを作製中の状態であり、自己抗体測定系が確立できていないため。
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今後の研究の推進方策 |
自己抗体プロテインアレイによる自己抗体価測定: 同定した16種の自己抗原および、原因遺伝子として知られる6種の膜タンパク(イオンチャンネルやポンプ)を搭載したプロトタイプのプロテインアレイを作製する。副腎静脈サンプリングを実施し、両側性あるいは片側性と診断した原発性アルドステロン症 200例(両側性 100例、片側性 100例)の血清サンプルの収集する。これらの副腎静脈サンプリング実施PAの血清サンプルは、金沢大学附属病院および京都医療センターより収集する。このサンプルを用いて各自己抗原の抗体価を測定し、①両側性PAにおけるAIPAの占める割合、②各自己抗原の出現頻度、を明らかにする。以上により、製品化に向けて自己抗原を厳選する。 生体内アルドステロン合成、分泌能、患者自己抗体分布: 患者免疫グロブリンをラットに静注後、血中アルドステロン濃度、副腎でのアルドステロン合成酵素発現(mRNA、タンパク)、免疫グロブリンの生体内分布を評価する。生体内分布は、アイソトープ標識免疫グロブリンを用いて評価する。 自己抗体の膜電流に与える変化; 各自己抗原のタグ(HaloTag)付きタンパク発現ベクターをHEK293細胞にトランスフェクションし、自己抗原蛋白を発現させる。パッチクランプにより自己抗体による電流変化を測定する。 TH1(細胞性免疫)とTH2(液性免疫)の活性化の程度の評価; 末梢血単核球を用いたELISpot法により、TH1系細胞ではIFN-γ産生細胞スポット数、TH2系細胞ではIL-4産生細胞スポット数をカウントすることにより活性化の程度を評価する。また、自己抗原の添加により、さらに活性化されるかどうかもみる。
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次年度使用額が生じた理由 |
自己抗原タンパクを固相化したELISAプレートを作製したが、自己抗体を検出できないことが判明した。このため、自抗体測定方法を変更することとなり、プロテインアレイを作製するための作製費を今年度使用しなかった。現在、プロテオリポソームを利用した自抗体測定に取り組んでいる。プロテオリポソームを搭載したプロテインアレイ作製に、今年度使用しなかった経費を使用予定である。
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