研究課題
平成29年度は、視床下部分化培養系でヒトiPS細胞からCRHニューロンを分化誘導する条件を確立した。全体計画での方針に従って、CRHニューロンとACTH細胞との共存条件探索を行う前に、平成29年度はまず、視床下部のみの分化法でCRHニューロンを誘導できる条件の確立を目指した。これまでに、ヒトES細胞から視床下部AVPニューロンへの分化法確立に取り組んできており、その方法で分化誘導して得られた視床下部ニューロンを詳細に検討すると、CRHが陽性に染まる細胞が含まれていることを見い出した(Ogawa K et al. 2018 Scientific Reports)。この分化条件をベースにして、CRHを含む視床下部ニューロンを安定して分化させる培養条件を確立した。使用する細胞としては将来の汎用性を考慮してヒトiPS細胞とし、201B7株・409B2株・454E2株など一般に広く用いられているものを複数用いることで、robustな分化方法へと洗練させるようにした。ストレス応答を中枢性に制御する役割を果たす視床下部CRHニューロンは、一般に、視床下部室傍核(PVN)の小細胞性ニューロンである。その部位の胎児での発生様式を、in vitroで再現できるように分化条件を調整した。具体的には、視床下部前駆細胞に発現するRAX、その後、背側視床下部へと分化したことを示すPAX6陽性かつNKX2.1陰性、などをマーカーとして各分化ステップ毎に条件を決めていった。iPS細胞株ごとに誘導因子添加の濃度や時期に多少の違いはあるものの、最終的にはいずれの細胞株でもCRHニューロンが分化誘導が可能であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の研究計画に沿った研究を実施し、所期の成果を達成したため上記と判断した。また、ヒトES細胞(KhES-1株)を用いた成果については、2018年2月に論文報告(Ogawa K, Suga H, et al. Vasopressin-secreting neurons derived from human embryonic stem cells through specific induction of dorsal hypothalamic progenitors. Sci Rep. 2018; 8(1): 3615. doi: 10.1038/s41598-018-22053-x. PubMed PMID: 29483626.)した。
当初の全体計画に沿って、平成30年度研究計画を実施していく。具体的には以下の2点である。(1)下垂体ACTH細胞と視床下部CRHニューロンとが同時誘導される条件を確立する。;これまでに見出した視床下部ニューロン成熟条件を、下垂体前葉分化条件に加え、下垂体細胞のみならず視床下部ニューロンも成熟する条件を最適化し、CRHニューロンとACTH産生細胞とが1つの細胞塊内に共存したユニットを作成する。同時誘導が達成できない場合は、2-chamber培養装置を利用する。この培養装置は、国立研究開発法人・産業技術総合研究所の医薬品アッセイデバイス研究グループにて開発されたもので、2つのchamberが流路を介して接続している。そこで、CRHニューロンとACTH細胞とを別々に分化誘導しておき、上流のchamberにCRHニューロンを、下流のchamberにはACTH細胞を播種することで1つの機能的ユニットを作る。産総研とは共同研究契約の締結を完了した。ただし、この培養装置を用いる場合、CRHニューロンおよびACTH細胞ともにトリプシン酵素液などで解離し、chamber内に再播種する必要がある。この手順が細胞機能にダメージを与える可能性が高く、全体としてホルモン分泌機能が落ちてしまうことが危惧される。以上から、2-chamber培養装置は次善の策と考えている。(2) CRH-ACTHユニットのin vitro機能テストを行う。;上述の(1)で作出したCRH-ACTHユニットが機能的に連携しているかどうかをin vitroで検討する。その他にも、培養液中のCRH濃度、低グルコースやセロトニンなどによるCRH刺激の効果、CRHレセプター阻害剤の効果などを調べることで、CRHとACTHとの相互作用の有無を検査する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 4件) 図書 (2件) 産業財産権 (1件)
Scientific Reports
巻: 8 ページ: -
10.1038/s41598-018-22053-x
医学のあゆみ
巻: 264 ページ: 653-658