研究課題
平成30年度は、下垂体ACTH細胞と視床下部CRHニューロンとがin vitroで同時誘導される条件を見出し、CRHとACTHとが一つのユニットとして機能していることを示した。我々が本研究課題より以前に開発した「ヒトES/iPS細胞から下垂体前葉への分化法」では、分化前半は視床下部と下垂体の前駆細胞がそれぞれ共存して誘導されているが、そこから先の成熟過程では、下垂体前駆細胞はACTH細胞などへ最終分化を達成しているのに対して、視床下部前駆細胞は途中で分化を止めてしまい、うまく最終分化しない。そこで、平成29年度に開発した「ヒトiPS胞から視床下部CRH神経への分化法」の条件のうち、下垂体前葉分化法との違いを検討した上で、神経成熟に重要と想定される条件を下垂体前葉分化条件に加えた。その結果、一つの細胞塊の中に、ACTHの染まる細胞とCRHの染まる細胞とが共存する状態を作り出すことに成功した。言い換えれば、CRHニューロンとACTH産生細胞とが1つの細胞塊内に共存したユニットが誘導できたと言える。従って、当初計画に次善の策として含めていた産業技術総合研究所の2-chamber培養装置を用いた実験は行わなかった。次に、作出したCRH-ACTHユニットが機能的に連携しているかどうかをin vitroで検討した。外因性のCRHを添加しなくても培養液中のACTH分泌が高まる結果を得たことから、ユニット内のCRHニューロンが機能して内因性にCRHを分泌していることが示唆された。また、低グルコース培地への暴露によりACTH分泌が高まること、この作用はCRHレセプター阻害薬により有意に抑制されること、などからCRHのコントロール下にACTHが置かれていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度の研究計画に沿った研究を実施し、所期の成果を達成したため上記と判断した。この成果を論文としてまとめ、現在投稿中である。
当初の全体計画に沿って、平成31年度研究計画を実施していく。具体的にはCRH-ACTHユニットの機能的連携がin vitroで示されたら、次に、異所性移植による効果判定を行う。対照群は、ACTH細胞のみの異所性移植群とし、CRH-ACTHユニットがより高度な機能を果たすかどうか、特にストレス下などで差が出るかを調べる。動物はマウスもしくはラットを用いる。既に我々は下垂体機能不全モデルマウス・ラットの作成技術を保持している。また、腎皮膜下や皮下などへの異所性移植手技、活動性などの効果判定の評価系も保持している。オプションとして、ACTH細胞を正所性移植することで、レシピエント動物の視床下部との連携が再構築できないか調べ、CRH-ACTHユニットと比較することも検討中である。正所性、つまりトルコ鞍内へ移植するためには、マウスやラットではサイズが小さすぎて技術的に困難である。サルを用いれば物理的に可能なサイズと言える。既に滋賀医科大学・動物生命科学研究センターと共同研究契約を締結済みであり、カニクイザルを用いて、正所性と異所性移植との比較を行うことで倫理申請中である。
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