研究課題
ミトコンドリア(Mt)ダイナミクスがミトコンドリア自身の品質管理のみならず、エネルギー代謝や、自然免疫を介する慢性炎症に関与すること、そしてその制御機構を明らかにすることを目的に、肝臓に焦点を当て、DRP1およびMFFの機能解析を進めた。①ERストレスを介したエネルギー代謝恒常性維持機構 Drp1LiKO初代培養肝細胞において、Fluo4を用いたCaイメージングにて、グルコース応答性ERカルシウム放出の低下、Rhod2を用いてグルコース応答性Mt外へのカルシウム流出の異常を観察した。Mt-ER間のCa2+の移動の障害によりERストレスが惹起されることを明らかにした。Thapsigarginおよびパルミチン酸によりESストレスが用量依存的に亢進し、Drp1LiKO肝細胞において顕著であった。ThapsigarginはSERCA (sarcoplasmic/endoplasmic reticulum Ca2+ ATPase) 阻害剤であり、Drp1を介するMtの分裂がMt-ER間のCa2+恒常性に不可欠でありことを示唆している。②自然免疫、オートファジーを介する慢性炎症惹起機構 1) 自然免疫応答制御:野生型マウスにLPSを腹腔内投与すると、NLRP3インフラマソーム/NFκB 経路を介した炎症性サイトカイン産生(IL-1b, IL-6, TNFa)が増加するが、Drp1LiKO ではこの炎症性サイトカイン産生が著明に亢進することを明らかにした。すなわち、ミMt分裂が阻害されると炎症の悪化を招くことが示唆された。2) オートファジー制御:Drp1LiKOではオートファゴソームの形成不全がみられた。
2: おおむね順調に進展している
① ERストレスを介したエネルギー代謝恒常性維持機構:これまでに肝細胞特異的Drp1欠損マウス (Drp1LiKO)ではMitochondrial associated membrane (MAM)の減少、ERの形態異常(膨化、短縮)がみられ、高脂肪食負荷でUnfolded protein response (UPR) が誘導され、PERK-eIF2a-Atf4経路の活性化しFGF21の増加がみられることを明らかにしている。肝細胞特異的Mff欠損マウス (MffLiKO)ではMAMの減少はDrp1LiKOと比べ少なく、UPRの誘導は極軽度であり、その結果FGF21の増加も殆ど見られなかった。これはDrp1がMt上ではMAMに局在し分裂を誘導している一方で、MFFはMt外膜全体に分布する分子であり、MAMの機能に不可欠ではないためと推測された。またDrp1LiKO初代培養肝細胞において、CaイメージングにてERストレス惹起機構を明らかにした。リン脂質解析として、解析はこれからであるが、既にリピドローム解析を行っている。②自然免疫、オートファジーを介する慢性炎症惹起機構MffLiKOマウスに高脂肪食負荷をかけると、野生型マウスと比較し著明な脂肪肝、炎症(マクロファージ浸潤)、線維化がみられることを明らかにしたが、ERストレスは惹起されない。Drp1とそのMt上の受容体であるMffとの機能の違いを明らかにした。
計画に従い研究を推進して行く。すなわち ①エネルギー代謝恒常性維持機構の解明に向け、Drp1LiKOおよびMffLiKO初代肝細胞を用いた解析を行い、Drp1-Mffが関与するERストレス、UPR惹起機構を明らかにし、FGF21の発現制御機構を明らかにする。個体レベルでのMffLiKOの解析を進め、Drp1LiKOの表現型と比較検討する。②慢性炎症惹起機構の解明に向け、TLRシグナル、LPS、ATPなどの細胞外シグナルとMtダイナミクスとのクロストークをDrp1LiKOおよびMffLiKO初代肝細胞を用いて解析する。特にDRP1のリン酸化修飾による制御機構を明らかにしていく。Drp1LiKO肝細胞においてオートファジー不全を明らかにしており、マイトファジーにおけるDrp1およびMffの機能を明らかにしていく。マイトファジーは慢性炎症性疾患のみならず、急性肝障害を含め他様々な疾患との関連が示唆されており、その解明は極めて重要である。Mtダイナミクスが慢性炎症応答ネットワークの共通の基盤として機能し、生活習慣病をはじめとする慢性炎症性疾患の治療標的となる可能性を明らかにする。
所属機関の異動にともない、本年度使用予定の抗体の購入を次年度に延期した。研究計画に遅延はなく、速やかに購入し研究を遂行予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 10件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
Nutrients
巻: 10 ページ: E297
10.3390/nu10030297.
Endocr J
巻: 65 ページ: 359, 371
10.1507/endocrj.EJ17-0276.
Trends Pharmacol Sci.
巻: 39 ページ: 13, 23
10.1016/j.tips.2017.10.007.
J Pharm Sci.
巻: 107 ページ: 647, 653
10.1016/j.xphs.2017.09.021.
Cell
巻: 171 ページ: 331, 345
10.1016/j.cell.2017.08.041.
NPJ Aging Mech Dis.
巻: 3 ページ: 11
10.1038/s41514-017-0011-1.
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 114 ページ: E6297, E6305
10.1073/pnas.1704847114.
Purinergic Signal.
巻: 13 ページ: 387, 404
10.1007/s11302-017-9568-1.
Cell Death Differ.
巻: 24 ページ: 1443, 1458
10.1038/cdd.2017.73.
J Comp Neurol.
巻: 525 ページ: 2535, 2548
10.1002/cne.24213.
http://med.kurume-u.com/kenkyu/kiso.html