研究課題
本課題で解析を進めてきた若年性・両側性の原発性アルドステロン症(PA)の1例は、KCNJ5遺伝子変異を全身性に持つ家族性3型PAである。思春期に肥大していた左副腎が摘出された。その後も血中アルドステロン値は高い状態であり、成人後に右副腎に2個の腫瘍が認められ、腫瘍の一方は腫大化が顕著であるため右副腎も摘出された。本研究では腫瘍部2個と非腫瘍部から構成される右副腎が用いられた。得られた結果は次の通りである。(1)組織内に検出されるアルドステロンのシグナルは、非腫瘍部被膜下で強く、腫瘍部では弱かった。(2)CYP11B2 mRNAレベルは非腫瘍部Nと腫瘍部Tにおいて同レベルで高かった。(3)正常KCNJ5の発現は正常副腎皮質の被膜下に検出されるが、本症例では変異KCNJ5の発現はNとTを問わず検出された。(4)エクソーム配列解析により、T1(腫大化が顕著な部位)、腫瘍部T2(腫大化が遅い部位)とNを比較したところ、T1にbeta-catenin変異が検出された。(5)腫瘍部と非腫瘍部のトランスクリプトーム解析では、T1において細胞増殖経路の遺伝子発現レベルが増加していることが判明した。本研究では、ファーストヒットであるKCNJ5変異を持つ副腎を用いたことにより、腫大化が顕著な腫瘍部を用いてbeta-catenin変異が検出された。これが腫瘍化のセカンドヒットであることが示唆された。本研究からは次の疑問が提示された。腫瘍部と非腫瘍部でステロイド合成酵素群のmRNAレベルは同等であるが、アルドステロン合成能は腫瘍部で低く、非腫瘍部被膜下で高いことは予想外の結果である。アルドステロン合成制御には未知のメカニズムが関わっている可能性がある。
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