研究課題
われわれは、全世界での報告がこれまで20例程度しかない、異所性のPTH(副甲状腺ホルモン)産生腫瘍(この組織型は後腹膜MFHに分類される肉腫であった)において、本腫瘍と、別患者の副甲状腺腫細胞の両者に発現するにもかかわらず、当該患者の白血球細胞や10種類以上の乳がん、肝がん、前立腺がんなどの培養腫瘍細胞には発現されていない約1600塩基から成るlncRNAの発現を確認した。そして、エキソーム解析によって、このMFH腫瘍では、PTH産生に必要なブレーキと考えられるCaSR(Ca感知受容体)が発現せず、逆に、そのアクセルとなり得るビタミンD不活性化酵素CYP24A1の大量発現を確認した。(An Excess of CYP24A1, Lack of CaSR, and a Novel lncRNA Near the PTH Gene Characterize an Ectopic PTH-Producing Tumor. J. Endocrine Soc. 1, 2017, 691-711。)これまでのところ、この腫瘍の発症のドライバー遺伝子の候補の可能性はこのlncRNA以外には見あたりづらいため、このnon-coding RNAの機能解析を行ってきた。またこの解析と並行して、最近入手したもう一例の未解析の異所性PTH産生胃がん細胞(Humoral hypercalcemia associated with gastric carcinoma secreting parathyroid hormone: a case report and review of the literature. Endocr. J. 60, 2013, 557-652)のマイクロアレイ解析およびRNA-seqを進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
現在、何らかのドライブ機能を持つ遺伝子発現を見出そうとするわれわれの試みにおいて、上述のlncRNAが、その役割を担う可能性を検討することを目的として、これを培養乳がん細胞へ導入し、この外来性lnRNA特異的に発現する遺伝子群のマイクリアレイ解析を網羅的に行っている。その一方で、エキソーム解析のプロファイリングを通じて、コピー数変動の見られる染色体部位、および腫瘍部のみで変異を起こしている遺伝子群を同定し、ダイレクトPCR、サンガーシークエンシングによって種々の新しい知見を集積しているところである。さらにこの組織に特異的に発現しているであろうmiRNAの発現についても網羅的な解析を進めつつある。一方の胃がん細胞においては解析のための手続きがほぼ完了し、そのホルマリン固定標本サンプル (FFPE) のRNA解析を中心とする次世代シークエンシング解析が緒についた段階である。
1) マイクロアレイにおいては、種々のPTH非産生MFHのデータがオープンア クセスとなっており、われわれのサンプルとの間で種々の比較検討を行っているところである。2) 異所性PTH産生MFHの解析から得たフレームシフト変異の入った遺伝子群のうちのATRXや med1および脱ユビキチン化酵素USP24についてCrispr-Cas9 やsiRNAを用いた遺伝子導入またはノックインする実験を計画している。そして、現在、3)上述のlncRNAの機能検証実験をT47D培養乳がん細胞を用いてRNA-seq実験とマイクロアレイ解析を組み合わせて進行させている。これまでの予備的検討からサイトカイン遺伝子の普遍的な核内転写因子であるSTAT1ファミリーに属する種々の遺伝子のlncRNA特異的発現が確認されている。これらのアプローチを通じて、究極的には、組織特異的発現の厳格な制御のもとに「生理的に」産生されるPTH遺伝子発現の未知の分子機構に迫り得ると確信している。さらに、国内で、最近報告された異所性PTH (決してPTHrPではない) 産生胃がん細胞を信州大学、飯田市民病院との共同研究により同様の方法で解析して今回の結果と比較検討することを開始した。ホルマリン処理サンプルであるため取り扱いには慎重を要するが、最近開発されたFFPE-PCR法を駆使していく予定である。また、種々の培養癌細胞では、しばしばPTHと受容体を共有するPTHrP(PTH関連ペプチドまたはタンパク)の産生を認める。このPTHrP発現の特徴を規定する分子機構は全く未解明であり、このPTHrPの産生機構についても、上記の研究を基盤にした何らかのヒントが見えてくる可能性に期待している。
国内で、最近報告された異所性PTH (PTHrPではない) 産生胃がん細胞を信州大学、飯田市民病院との共同研究において同様の方法で解析して今回の結果と比較検討することを開始した。ホルマリン処理サンプルであるため取り扱いには慎重を要するが、最近開発されたFFPE-PCR法を駆使して実験を進めていく予定である。この実験のための必要書類の完成がようやく終了したばかりのため、次年度使用額が生じるに至った。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
J. Endocrine Soc.
巻: 1 ページ: 691-711
10.1210/js.2017-00063