研究課題
破骨細胞分化の過程では、M-CSFやRANKLなどのシグナルによって細胞増殖・融合・巨細胞化・活性化といった劇的な変化が認められる。その根底には、転写因子NFATc1を中心とした転写因子複合体による、様々な下流遺伝子のそれぞれの発現時期に合わせた巧妙な発現調節機構が存在する可能性が考えられるが、未だ明らかでない部分が多い。そこで、初年度の試みとして、NFATc1を過剰発現させたHEK293細胞からTandem affinity purificationとLC-MS/MSを組み合せてNFATc1結合蛋白の同定を試みた。その結果、新規NFATc1結合分子群の同定に成功した。中でも、WHSC1は、Mascot scoreから高い存在確率が示された。興味深いことに、この分子はWolf-Hirschhorn syndromeの原因遺伝子であることが分かり、この遺伝子変異により軟骨や骨の異形成がもたらされることが分かっており、骨組織との高い関連性が示唆されている。同時にその機能として、ヒストンH3K36のtri-methylを制御することが明らかとされており、破骨細胞分化におけるエピジェネティックな遺伝子制御機構に注目して解析を進めている。また、NFATc1転写因子自体の翻訳後タンパク修飾解析を実施した結果、リン酸化やアセチル化、メチル化など、新規のNFATc1化学修飾を検出した。これらの実績は、様々な上流シグナルに応じた転写因子複合体形成を介して機能の異なる多様なNFATc1下流遺伝子発現制御により、破骨細胞の複雑な分化過程が制御されている可能性が示唆しており、今後の研究の発展につながる大きな成果である。
2: おおむね順調に進展している
予定通り、転写因子NFATc1の複合体解析を行い、新規の結合分子群の同定に成功した。加えて、NFATc1の新しいpost-translational protein modificationとして、リン酸化やメチル化の同定にも成功しており、おおむね順調に成功している。
今後の方針として、次世代型シークエンサーを用いて前破骨細胞系細胞株RAW264.7におけるRANKL刺激後の遺伝子変化をゲノムワイドに解析していく予定である。このトランスクリプトーム解析では、これまで破骨細胞分化との関連性が明らかでないprotein-coding genesや、micro-arrayなどでは検出できないmicroRNAやlincRNAなどのnon-coding RNAなどを含めて、どのような遺伝子群がRANKL依存性に発現制御を受けるかを調べる予定である。可能であれば、これらの新規破骨細胞分化関連遺伝子について、RAW264.7細胞を用いて、破骨細胞分化におけるタンパクレベルでの発現を検討する。さらに、CRISPR/Cas9システムを用いて、WHSC1やNFATc1をノックアウトし、RANKL依存的シグナルで刺激し、RNA-seqによる下流遺伝子群のプロファイルを比較解析することで、骨ネットワークの特定の機能のなかでも、どの機能制御に関わっているかを明らかにする方策である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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