研究実績の概要 |
【背景】Cushing病の下垂体腺腫では、脱ユビキチン化酵素USP8遺伝子の体細胞変異が高率に認められるが、その分子機構はいまだ不明である。我々はこれまで、USP8変異を持つ腫瘍は女性で2cm以下の小さな腫瘍に多くPOMC発現が高い、一方、野生型の腫瘍は大きく浸潤性の強い腫瘍に多くPOMC発現が低いことを報告した。本研究ではUSP8変異の有無で発現調節される遺伝子や蛋白発現を検討することでUSP8変異の標的蛋白を同定することを主目的とする。 【方法と結果】1) ACTH産生下垂体腺腫のRNAを抽出しDNAマイクロアレイを用いて,USP8変異陽性腺腫(MUT)3例と野生型腺腫(WT)3例でmRNA発現を比較した。MUTが2倍以上(p<0.05) の遺伝子は1,128個、 一方、MUTが1/2以下(p<0.05) の遺伝子は288個であった。パスウェイ解析によりMUTで特定の時計遺伝子群とMAPK系に高発現する遺伝子が認められた。それら時計遺伝子, MAPK, cell cycle関連遺伝子など計42の遺伝子の発現をリアルタイムPCRで検討したところ28遺伝子にPOMC発現とR>0.3の相関を認めた。時計遺伝子のBMAL1とMAPK系のPRKACAの発現量にはR=0.772と高い相関が認められ、さらに下流のPRKACAとMAP3K5、MAP3K5とMAPK13、MAPK13とPOMC発現にR=0.5前後の中等度の相関が認められ、POMC発現に時計遺伝子~MAPKパスウェイ(PRKACA~MAPK13)を介した経路が示唆された。Cushing 病はACTH概日リズムの消失による過剰分泌を特徴とするが、USP8変異と関連し時計遺伝子の過剰発現を介したMAPKの活性化が想定された。2) 続いてMUT5例とWT5例のACTH産生腺腫の蛋白を抽出しTMT法による高感度質量分析によるプロテオーム解析を行い蛋白発現を比較した。3) 1)と2)より蛋白の発現がMUTで2倍以上(P<0.05)だが遺伝子発現は2未満(P<0.05)の蛋白を選び、細胞外蛋白を除外したところ35種の蛋白が残った。今後この35種の蛋白にはUSP8変異の標的蛋白がないか検討予定である。
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