研究課題
まず我々は心房性・脳性ナトリウム利尿ペプチド (ANP・BNP) の共通受容体であるGuanylyl Cyclase-A (GC-A) の発現分布を、野生型マウスで調べた。GC-Aタンパクは脳・心臓・肺・肝臓・白色脂肪組織 (WAT) ・褐色脂肪組織 (BAT) に豊富に発現していたが、骨格筋における発現レベルは著しく低かった。次に定量PCR法でGC-AのmRNA発現レベルを調べたところ、心臓・肝臓には同程度発現しており、WATには心臓の約3倍・BATには心臓の約5倍の発現量を確認したが、骨格筋における発現レベルは心臓の2割未満であった。次に野生型マウスWATより脂肪細胞の初代培養を行い、ANPで刺激してセカンドメッセンジャーであるcyclic GMPが増加するかを調べた。結果、ANPの濃度依存性に脂肪細胞からcyclic GMPが産生されることが分かった。過去の論文で「BNPが骨格筋におけるミトコンドリアバイオジェネシスを促進すること」が報告されており、我々はラット骨格筋を用いたGC-Aの免疫組織染色を行った。結果、骨格筋細胞におけるGC-Aの発現は微々たるものであったが、骨格筋組織中の血管 (内皮細胞・平滑筋細胞) には顕著なGC-Aの陽性染色像を認めた。ANP・BNPは血管拡張作用を有していることから、ANP・BNPのミトコンドリアに対する作用は骨格筋血流増加を介したものであることが示唆された。次に我々はGC-A完全欠損マウスの表現型を調べた。興味深いことに、GC-A完全欠損マウスは普通食投与下において、野生型マウスに比べて有意に体重が重かった。MRIで調べた結果、除脂肪体重は両群間で差を認めなかったが、脂肪重量はGC-A完全欠損マウスの方が有意に重かった。今後GC-A完全欠損マウスの表現型をさらに詳細に調べる予定である。
2: おおむね順調に進展している
ここまでの検討で、GC-Aの発現分布・GC-A完全欠損マウスが普通食投与下において脂肪重量増加に伴う肥満傾向を示すことが分かった。このことは内因性ANP・BNPが抗肥満作用を有することを示唆しており、大変興味深い。またANP・BNPは循環調節ホルモンであるが、骨格筋組織において、骨格筋細胞ではなく血管細胞にGC-Aの豊富な発現を認めたことは、ANP・BNPのエネルギー代謝における標的組織が脂肪以外にも存在する可能性を示唆しており、こちらも大変興味深い知見である。
平成30年度は、GC-A完全欠損マウスの表現型をさらに詳細に調べ、生体内のどの組織におけるANP・BNP-GC-A系が抗肥満作用に強く寄与しているかについて明らかにする。まずGC-A完全欠損マウスの肥満が過食・熱産生低下・活動量低下のいずれの指標で説明できるのか明らかにする。またGC-A完全欠損マウスの耐糖能・インスリン感受性について、糖負荷試験・インスリン負荷試験を行って明らかにする。さらに脂肪組織・肝臓・骨格筋からRNAを抽出してcDNAを合成し、エネルギー代謝に関与する遺伝子の発現レベルについて野生型マウスとの間で比較検討する。これらの結果をふまえて、平成31年度は組織特異的GC-A欠損マウスを用いた検討を行う予定である。
今年度は抗体を用いた免疫組織染色で興味深い結果を得たが、これまでの経験上、免疫組織染色に使う抗体は複数の種類を試す必要がある。しかし今回は最初に用いた抗体で良い結果が得られたため、当該助成金が生じる結果となった。今後の助成金の使用計画としては、遺伝子発現検討実験に用いる試薬代・動物飼育費が消耗品費の中心となり、旅費は国内学会参加に伴う費用に用いる予定である。
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Scientific Reports
巻: 8 ページ: 2093
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http://www.ncvc.go.jp/res/divisions/biochemistry/