研究課題/領域番号 |
17K09904
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高森 弘之 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (80792077)
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研究分担者 |
植田 康敬 大阪大学, 医学部附属病院, その他 (30533848)
西村 純一 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (80464246)
金倉 譲 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20177489)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 発作性夜間ヘモグロビン尿症 / PNH / 血液 / 内科 / 補体 / 遺伝学 / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
発作性夜間ヘモグロビン尿症 (paroxysmal nocturnal hemoglobinuria : PNH) を発症した親子から口腔粘膜および末梢血液検体を採取した。末梢血液よりフィコールを使用した遠心分離と、ACK bufferによる溶血で、顆粒球を抽出した。さらにFluorescence-activated cell sorting (FACS) にてfluorescent-labeled inactive toxin aerolysin (FLAER) を使用してPNHクローンの抽出を試みた。母は問題なかったが、息子は顆粒球の92.7%がPNHクローンであり、分離が不可であり、全顆粒球からDNAを抽出した。次に、タカラバイオ株式会社にシーケンスを依頼した。SureSelect XT Human All Exonでシーケンスライブラリーを作成、cBOTでクラスター形成を行い、Hiseq2500にてシーケンスを行った。4サンプルとも平均depthは80を超えており、90%以上がQuality Scoreが30を超えていた。まず、Glycosylphosphatidylinositol (GPI) の 生合成に関する遺伝子を検討した。母はPIGA遺伝子に塩基欠損 (ex.5 984delT : p. Val329X) を認め、息子はPIGA遺伝子に2つの塩基置換 ( ex.2 C229T : p. R77X およびex.6 C1260A : p. C420X) を認めた。これらの遺伝子変異について、サンガーシーケンスで確認を行った。これによりGPIの生合成に関わる遺伝子異常は家族内で共通していないことが確認されたため、PNHクローン拡大に関わる遺伝子異常が家族発症に関与していると考えられ、現在、候補遺伝子変異の中より責任遺伝子変異の同定を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は、まず研究計画調書に記載した仮説1 (GPIの生合成に関わる遺伝子変異が共通している) を証明すべく、それぞれのGPIの生合成に関わる遺伝子変異の確認を行った。その結果、それぞれ異なるPIGA遺伝子変異を認めたために、これらは家族性には関与しおらず、仮説1は否定された。そこで仮説2 (PNHクローンの拡大に関わる遺伝子変異が共通している) を証明すべく、責任遺伝子変異の抽出を試みた。家族性であれば、germlineに共通の遺伝子変異が存在すると考えられる。共通するgermlineの遺伝子変異のうち過去のデータベースより出現頻度が10%以上のものを除外したところ、287遺伝子が検出された。そして、まずは責任遺伝子変異が、two hit (対立遺伝子の両方に遺伝子変異が生じる) で病態成立に影響を及ぼすという仮説と、親子共に成人発症であることより、one hitがgermline mutationとして存在し、そこにsecond hitがsomatic mutationとして生じ、病態が成立したという仮説をたて責任遺伝子変異の抽出を行った。 共通するgermline mutationの中で、さらに共通にsomatic mutationとしても存在している遺伝子変異を抽出した。それにより8つの遺伝子変異が抽出された。しかしながら、既報からは、PNHクローンの拡大に関わっていると強く示唆される遺伝子変異はなく、どの遺伝子変異について、サンガーシーケンスで変異の確認し、機能解析を行うべきか、慎重に検討している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、抽出した8つの遺伝子について、過去の文献やデーダベースから、より詳細な情報収集を行い、解析している。新たな情報や知見が得られ、PNHクローンの拡大に関わっている可能性が高い遺伝子が抽出された場合は、サンガーシーケンスで確認し、細胞株やマウスモデルを使用した機能解析を行う。しかしながら、この8つの遺伝子の中から、そのような遺伝子が抽出されなかった場合は、germline mutationとして親子で共通して存在している遺伝子変異の中で、one hitのみでPNHクローンの拡大に関わることが可能な遺伝子変異が存在しないか検討する。それにより、関与している可能性が高い遺伝子変異が抽出されれば、同様にサンガーシーケンスで確認し、細胞株やマウスモデルを使用した機能解析を行う。それでもなお、確からしい遺伝子変異を抽出することができなければ、仮説2も否定されることになる。その場合は、研究計画調書にも記載したが、この親子は孤発例であると考えられる。この際は、somatic mutationを中心に解析を行い、それぞれのPNHクローンの拡大機序に関与している可能性が高い遺伝子変異を抽出する。PNHに対する遺伝子解析による検討は多くはない。特に、PNHクローンの拡大機序は遺伝学的に不明な点が多く、孤発例としての検討もPNHの病態成立の解明に対して、意義があると考える。
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