研究課題/領域番号 |
17K09905
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
定 明子 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (90467655)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 好酸球増加症 / デジタルPCR / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
本研究はPCR アレイ法と次世代デジタルPCR 法を組み合わせて診断が困難な好酸球増多症を早期に診断するためのシステムを開発することを目標とし、次の2段階のステップよりなる。 ①.診断マルチバイオマーカー候補遺伝子のスクリーニング:原因がさまざまな好酸球増多症の患者の末梢血由来単核球保存検体から合計数百に及ぶ遺伝子発現データはPCRアレイ法により既に得られている。その遺伝子発現解析データを基にした疾患関連因子のプロファイリングより、多変量解析とバイオインフォマティクスを用いて診断に有用なマルチバイオマーカーを探索する。 ②.デジタルPCR 法により再現性を検証:得られた複数のバイオマーカー候補遺伝子発現量をより正確なデジタルPCR法で測定することにより、結果の再現性を検証し、診断に有用な遺伝子の組み合わせを導き出す。 段階①では4 種類のPCRアレイデータに共通して発現量が安定していると考えられる5つの内部標準遺伝子の中から、既知の統計学的手法により最も発現が安定している遺伝子を1つ選択した。その遺伝子で他のすべての遺伝子発現量を標準化した後、複数の多変量解析方法で症例の比較を行ったところ、腫瘍性(造血器と非造血器)や炎症性疾患などの原因に応じて好酸球増多症患者は明確に区別された。すなわちこの多数の遺伝子群の中には少なくとも腫瘍性か非腫瘍性好酸球増加症かを区別するための複数のバイオマーカー候補分子が確実に存在する。それどころか数個の分子に着目する従来の細胞実験や動物実験と異なり、本研究のように網羅的解析に近づく数百オーダーの遺伝子発現データに対し多変量解析を施すと、驚くべきことに多数の遺伝子群が連動してそれぞれの遺伝子発現プロファイリングの違いを形成していることが示される。本研究により生体内では多数の遺伝子がダイナミックに連関して変動していることが実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究ではその一方、伝統的な内部標準遺伝子による標準化法では常識から外れた結果も生じ得ることがわかった。その原因は腫瘍性疾患の群では非腫瘍性群に比べ遺伝子全体の発現量が増幅していることに由来する。近年海外の複数の研究グループも腫瘍性疾患ではc-myc高発現等により遺伝子の発現量が増幅していることを報告しており、もしも内部標準遺伝子(これも腫瘍では増幅する)で標準化すると腫瘍と非腫瘍性疾患のデータにひずみが生じ誤った解釈につながる問題が指摘されている。本研究の結果はまさしくこの現象が細胞実験や動物実験のみならず臨床研究にも見られることを示している。本研究はまだ臨床研究分野では十分に認知されていない従来の遺伝子標準化方法による問題を世界に向けて警鐘を鳴らす役割を担うと思われる。 このような慣習的に行われてきた不適切なデータ前処理の問題はその後のデータ解析の結果の解釈を著しく歪めることに繋がるため、その対応策として他の研究者が考案したマイクロアレイ解析に開発された新規の標準化方法を本研究用に適合するよう改良し応用することを試みている。本研究の成果は今後の網羅的遺伝子発現解析の踏み台にもなることが想定される。現在はデータ解析結果の検証を再度試みている。 また、最初の研究計画で予定した段階②のデジタルPCR法での検証実験に対しては、実験技術の向上を目指した予備実験を行った。
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今後の研究の推進方策 |
最初の研究計画では疾患関連性遺伝子発現プロファイリングの病態分類と予測に対しては主に統計学的手法・多変量解析を行う予定であったが、今後はさらにバイオインフォインフォマティクスを適用し4種類のPCRアレイ法の結果を統合した解釈を加えることが有用と考える。バイオインフォインフォマティクスは統計的な解析結果に生物学的な知見を加えることにより診断的有用性が高い遺伝子を吟味し開発前段階で効率的に絞り込む効果が期待できる。これによりデジタルPCR法による検証実験の簡潔化と加速化を図る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
デジタルPCR法の前段階として統計学的手法・多変量解析やバイオインフォマティクスによるデータ解析を優先した結果、デジタルPCR法にかかる実験試薬の購入が次年度に延期された。PCRアレイのデータ解析の結果により開発段階で有用と考えられるバイオマーカー候補遺伝子が絞り込まれた時点で試薬の購入を予定している。
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