前年度までの研究成果から、マウス胚性幹(ES)細胞をOP9ストロマ細胞と6日間共培養して得られた造血性血管内皮(HE)細胞(D6ES-HE細胞)の約90%はCD34陰性であり、約10%がCD34陽性であること、一方、胎生10.5日目マウス胚AGM領域のHE細胞(E10.5AGM-HE細胞)は、すべてCD34陽性であることを見出している。 そこで、D6ES-HE細胞からCD34陽性細胞とCD34陰性細胞を別々に単離して培養した結果、前者から、より多くの造血前駆細胞が得られた。また、CD34陰性D6-HE細胞は、原始赤血球とCD34陽性HE細胞に分化することを見出した。さらに、ES細胞をOP9ストロマ細胞と9日間共培養して得られたHE細胞(D9ES-HE細胞)はCD34陽性であること、このHE細胞はD6ES-HE細胞よりも造血前駆細胞に分化する割合が高いことが判明した。 前年度の研究成果から、D6ES-HE細胞は、E10.5AGM-HE細胞と比較して、ミトコンドリアDNAにコードされている遺伝子の発現が全体的に低下していることを見出している。これらの遺伝子の発現低下は、D9ES-HE細胞においても認められた。しかし、D6ES-HE細胞とE10.5AGM-HE細胞では、ミトコンドリアDNAのコピー数、ミトコンドリアの形態に顕著な差は認められず、D6/D9ES-HE細胞におけるこれらの遺伝子の発現低下の原因は不明であった。 胚発生における細胞のエネルギー獲得は、初期段階では解糖系がメインであるが、血液循環系の発達に伴い酸化的リン酸化へと移行する。このことから、D6/D9ES-HE細胞では、酸化的リン酸化によるエネルギー代謝機構に関する異常が示唆され、このことがES細胞から造血幹細胞へ分化しない原因である可能性が示唆された。
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