研究実績の概要 |
研究代表者は小分子RNAであるcircRNA/miRNAの研究を主にB細胞リンパ腫を対象に行なった。circRNAは環状のnon coding RNAであり、miRNAを相補配列に「吸着」して発現異常をおこさせる。平成28年度(2016年度)からのcircRNAスクリーニングによって得られたいくつかのcircRNA候補を同定した。平成30年度(2018年度)は、予測プログラムやmiRNA発現解析を用いて、候補circRNAに吸着されるmiRNAを推定し、腫瘍細胞維持に与える影響について検討した。また腫瘍維持に中心的な役割を担う治療標的になりうる候補分子について、circRNAの標的miRNAを組み込んだB細胞リンパ腫の腫瘍細胞を使用して下流蛋白発現変動、アポトーシス、細胞周期の変化を検討した。平成31年度(2019年度)は、50臨床検体のcircRNA定量測定を行い、検体の蓄積されたデータに基づきcircRNAの発現を検討した。研究代表者はB細胞リンパ腫で発現が低下するcircRNAとして、circ-MTO1 (hsa_circ_0007874)を同定した。また令和元年(平成31年度、2019年度)には、circ-MTO1はmiR-17、miR-20を吸着することが明らかにした。したがって、同circRNAの発現低下は、miR-17、miR-20の異常な発現上昇を引き起こすと考えられた。miR-17、20の発現上昇は、B細胞リンパ腫において13番染色体q31(13q31)のゲノム構造異常(ゲノムコピー数の増幅)によっても生じるが(Ota A, Tagawa H et al., Cancer Res 2004)、circMTO1の発現低下症例は13q31のゲノム増幅を生じていなかった。つまりcircMTO1の発現低下と13q31の増幅は「互いに相補的、mutually exclusive」な関係であった。miR-17、20の発現上昇の伴い、その標的蛋白であるPTENは発現が低下することも明らかにした。現在circMTO1の強制発現の実験をBリンパ腫細胞株に対して行なっており、その結果PTENの発現が回復することを見出した。これらの結果は論文化し現在海外学術雑誌に投稿予定である。
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