研究実績の概要 |
多発性骨髄腫の新規治療戦略としてCD38抗原の認識抗体ダラツムマブなどの抗体療法が注目されている。NK細胞などのエフェクター細胞は、骨髄腫細胞表面のCD38抗原と結合したダラツムマブのFc部分とFc受容体を介して結合することにより活性化されて骨髄腫細胞に対して細胞傷害活性を示す(ADCC活性)。ADCC活性の活性化には、骨髄腫細胞でのNK細胞の細胞傷害活性の標的抗原の発現変化が重要な役割を果たす。また、ADCC活性に加えて骨髄腫細胞に結合した抗体が補体を活性化して骨髄腫細胞に細胞傷害活性を示すCDC活性も抗骨髄腫作用を担う。一方、骨髄腫細胞表面に発現するCD55, CD59は補体の作用を減弱しCDC活性を阻害すると考えられる。本研究ではパノビノスタット(汎HDAC阻害)、ロミデプシン(HDAC1-3阻害)、ACY-1215(HDAC6阻害)などの各種HDAC阻害剤処理によるNK細胞の細胞傷害活性の標的抗原(MICA/MICB、ULBP-2/5/6)及びCD55, CD59の発現変化をU266, KMS-11, KMS-18, KMS-12PE, RPMI8226などの骨髄腫細胞株で解析した。その結果、HDAC阻害により骨髄腫細胞でMICA/MICB, ULBP-2/5/6の発現増加及びCD55, CD59の発現低下が誘導されることを明らかにした。これらの発現変化にはセリン/スレオニンキナーゼのAktが関与することが示唆された。さらに、ダラツムマブのADCC及びCDC活性がHDAC阻害により増強することが示された。 以上の結果から、ダラツムマブなどによる抗体療法においてHDAC阻害剤の併用で治療効果が増強し抵抗性の克服をもたらす可能性が示された。 HDAC阻害薬に加えてAkt阻害薬の併用も抗原変化に関わることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度の研究計画であげられた、パノビノスタット、ロミデプシン、ACY-1215処理によるNK細胞の細胞傷害活性の標的抗原、CD55, CD59の発現をU266, KMS-11, KMS-18, KMS-12PE, KMS-26, RPMI8226などの骨髄腫細胞株で解析する計画については、各クラスのHDAC阻害剤でMICA/MICB、ULBP-2/5/6の発現が上昇し、CD55, CD59が低下することを見出した。MICA発現上昇の分子機構についてもmRNAが上昇し、エピジェネティクスによる制御機構が明らかになった。 さらに、骨髄腫細胞株にレンチウイルスを用いてルシフェラーゼ発現ベクターを導入し、ADCC活性(エフェクター細胞を含む健常者末梢血単核球存在下で治療抗体とコントロール抗体で細胞傷害活性を比較)とCDC活性(複数人の健常者血清とその非働化血清存在下で治療抗体による細胞傷害活性を比較)を評価する系を確立した。これらを用いてHDAC阻害剤によりADCC, CDC活性が増強することを明らかにした。以上からH29年度のHDAC阻害による骨髄腫細胞に対する腫瘍免疫応答の変化の解析についてはおおむね順調に進展し、今後の解析がさらに進むことが期待される。 一方、PPP3CAによるNF-kBシグナルの活性化機構の解明は必ずしも、仮説を裏付けるデータが十分得られていないのが現状である。
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