研究課題
本研究は、TNF-αとは独立してTNFレセプターに結合するGP88(progranulin)の関与により、慢性炎症を母地に悪性リンパ腫が発症する機序、悪性化獲得のメカニズムを病理学的所見、臨床情報と関連づけて検討し、その制御方法を模索することを目的とする。平成29年度は岐阜大学医学部附属病院血液内科に入院した悪性リンパ腫症例の入院時保存血清を用いて、血清GP88をELISA法にて測定し、異常高値群を抽出した。同時に診断時残余生検検体のparaffin切片材料を用いてGP88タンパク質発現を検討し、リンパ腫細胞に強発現している症例を確認した。悪性リンパ腫における血清GP88タンパク過剰発現の予後因子としての有用性を検討したところ、びまん性大細胞型B細胞性リンパ種(DLBCL)症例において血清GP88高値症例は低値症例と比較して有意に予後不良であることを確認した。結果を学術誌に投稿し、受理された(Clin Chim Acta. 2017)。慢性炎症からの発がんという視点においては、近年TNFaよりも GP88がより直接的に影響していると推測されているが、本報告は造血器腫瘍におけるGP88の影響に関する初の報告である。悪性リンパ腫において慢性炎症からの発がんは疫学的に証明されているが、本研究ではTNFαと結合を同じくするGP88がTNFR に接合することが発がんおよび悪性度の進展につながることを明らかとした。この結果は悪性リンパ腫の制御方法の着想、あらたな分子標的薬剤の開発に寄与するものと考えられる。さらには、同じくGP88高発現による難治性悪性腫瘍、乳がんなどへの応用も十分可能であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
一部ではあるが研究結果をまとめて学術誌に投稿し、受理された(Clin Chim Acta. 2017)。
今後はcDNA、genomic DNAを用いGP88遺伝子発現、転写異常、蛋白合成異常を明らかとすし、さらにGP88低発現である低悪性度リンパ腫由来細胞株(FL-18など)に、外来性に正常GP88を発現することにより、増殖能力など生物学的悪性度に変化が現れるかを明らかとする予定である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Clin Chim Acta
巻: 473 ページ: 139-146
10.1016/j.cca.2017.07.024.