研究課題
平成29年度においては、悪性リンパ腫病変形成における腫瘍細胞と微小環境との相互作用の解明について取り組み、主に中枢神経や血管内に病変を形成する腫瘍細胞の細胞遺伝学的特徴の解明を試みた。中枢神経、精巣などの特異臓器に病変を形成した患者由来腫瘍細胞を複数経路から免疫不全マウス(NOGマウス)に異種移植する試みを継続し、各臓器に病変を形成するマウスモデルを作製した。各臓器の病変より得られた腫瘍細胞を、CD45を指標にセルソーターにて純化し、純化した腫瘍細胞よりRNAを抽出した。抽出したRNAを用いて、全RNA配列解析を行った。全RNA配列解析より中枢神経病変と腹部腫瘤病変との間で有意な発現の差異を認めた候補遺伝子を複数抽出し、定量および定性PCR法にてその発現を確認した。PCR法で確認された候補遺伝子について更なる生物学的機序の検討に着手している。血管内に病変を形成する血管内大細胞型B細胞リンパ腫についても、継続的に研究に取り組み、その遺伝子変異プロファイルを明らかにした。並行して腫瘍細胞と微小環境構成細胞との相互作用についても検討を進めた。複数の悪性リンパ腫患者の生検検体よりがん関連線維芽細胞を単離し、がん関連線維芽細胞間において患者由来悪性リンパ腫細胞の生存支持効果に相違が見られることを明らかにした。その相違の機序について、主にがん関連線維芽細胞より分泌されるエクソソームの観点から検討を進め、生存支持効果とエクソソーム分泌量に関連が認められることを明らかにした。さらにエクソソームの分泌量のみならず、エクソソーム自体の相違によって、生存支持効果に差異が生じることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
体内の各臓器に病変を形成する腫瘍細胞の細胞遺伝学的特徴の解明については、中枢神経や血管内に腫瘍細胞を形成するリンパ腫に着目し、検討を進めている。血管内大細胞型B細胞リンパ腫については、ゲノムコピー数異常および遺伝子発現プロファイルから得られた知見と同様に、遺伝子変異プロファイルがABC-like DLBCLに類似しており、その中でもさらに中枢神経や精巣原発DLBCLの遺伝子変異プロファイルに類似していることを明らかにした。中枢神経に病変を形成するリンパ腫については、同一検体よりマウスモデル内に中枢神経病変と腹部腫瘤病変を作成し、全RNA配列解析にて発現差を認める遺伝子を抽出した。その遺伝子の妥当性を、PCR法を用いて検証した。メカニズムの解明に繋がる可能性のある興味深い遺伝子も抽出されており、今後の展開が期待出来ると考えている。これらの観点からは概ね順調に推移していると考えられる。腫瘍細胞と微小環境構成細胞との相互作用の解明については、がん関連線維芽細胞より分泌されるエクソソームの生物学的特徴について検討を進めた。がん関連線維芽細胞には差異があり、各々のがん関連線維芽細胞から分泌されるエクソソームの分泌量の多寡のみならず、エクソソームの内容物についても、腫瘍細胞の生存支持効果に関与している可能性を示唆する知見を得ている。エクソソーム分泌を阻害することにより、腫瘍細胞への生存支持効果が阻害される実験結果も得ており、エクソソームが悪性リンパ腫の腫瘍微小環境において、大きな役割を果たしていると考えている。これらの観点からも概ね順調に推移していると考えている。
平成30年度においては、中枢神経に病変を形成する腫瘍細胞の特徴を明らかにするために、29年度に抽出した候補遺伝子の妥当性について更なる検討を進めるとともに、候補遺伝子の病態への関連について検討を進める。がん関連線維芽細胞より分泌されるエクソソームについては、in vitroの検討においてエクソソームの生物学的効果を明らかにしつつあり、今後in vivoモデルを用いた検討を進めるとともに、患者検体での臨床的意義の検討に着手することによって、治療標的としての可能性を明らかにしていく。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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