研究課題
引き続き単一細胞の遺伝子変異と遺伝子発現解析の同時測定を行う解析系の構築を行っている。前年度までに細胞株での系の構築に成功しており、今年度は凍結骨髄細胞での解析系の構築を行った。骨髄細胞では細胞株と比較して遺伝子発現レベルが低く、また細胞の多様性も大きいため、前年度に構築した実験系ではRNAを鋳型とした遺伝子変異領域増幅感度の低下を認めた。また、全体的に低い遺伝子発現のため、発現解析に対する遺伝子変異領域を増幅するためのプライマー添加による影響も強く生じた。そのためプライマー濃度の再調整や、PCR増幅産物の長さ、PCR条件などの最適化、および変異領域の多段階増幅などにより実験系の最適化を行った。これらの実験系の改良により、凍結骨髄細胞の未分化細胞分画においても、比較的発現量の多い遺伝子変異の効率的な増幅、変異同定に成功し、同時に網羅的遺伝子発現解析にも成功した。同様に骨髄系腫瘍の凍結検体の未分化細胞分画においても解析の最適化を行った。また、変異と同様に重要である染色体のコピー数異常の解析も改良を行っている。前年度までの解析手法では解像度が低かったが、コピー数の推定の解析手法を一新し、また、同一検体上の変異を有しない正常細胞をコントロールとして用いることにより、より正確なコピー数異常の解析を行うことが可能であった。さらに、得られた単一細胞の発現情報の解析法の最適化も進めており、仮想的な時間軸を構築するpseudo-time解析も導入している。現在、より発現の低い遺伝子の変異同定や系全体の改良を引き続き行っている。
2: おおむね順調に進展している
前年度までに細胞株では比較的安定した系の構築に成功したが、実際の患者検体の凍結骨髄ではサンプルの品質も低くて死細胞が多く、全体的な遺伝子発現も細胞株よりも低く、また細胞毎の遺伝子発現状態の多様性も大きかったため、前年度に開発した系での解析ではいくつもの問題点が生じた。しかしながら、実験系のさらなる最適化により、大きく前進することが可能であった。現状では比較的遺伝子発現の高い遺伝子の変異同定が可能であり、これらの症例で実際に解析を進めながら、実験系、解析系の最適系を行っている。患者検体での発現の低い遺伝子変異の解析が課題であり、更に最適化を進めている。
現状では我々の解析技術は全てのサンプルでのあらゆる種類の変異を完全な網羅できる水準には達していないが、現状で解析可能な発現の高い遺伝子に重要なドライバー変異を有する症例、全体的に遺伝子発現の高い症例や細胞分画などでの解析を先行しつつ、実験系、解析系のさらなる最適化を行っていく。同一症例での経時的変化の追える症例や、化学療法後に腫瘍細胞が一部残存している症例などについても重点的に解析を行う。
すべて 2018
すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)