研究課題
ヒトT 細胞白血病ウイルス(HTLV-1)キャリアの約5%に発症する成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)は予後不良である。ATLLは、TAXやHBZなどの『プロウイルスDNA由来産物』と『宿主のゲノム・エピゲノム異常』に起因する、T cellの形質変化(不死化・増殖亢進・免疫機能変容)を基に発症すると考えられている。いまだその病態を忠実に再現した動物モデルはなく、多くの患者に許容可能な治癒的治療法は開発されていない。本研究では、ATLLの分子病態を再現したATLLマウスモデルの作成と治癒的治療法の探索を行っている。これまでに、HBZトランスジェニックマウス(HBZ-Tg)の表現型解析を行い“ATLLモデルマウスの基盤としての妥当性”を検証した。HBZ-Tgでは生後1年の自然経過でリンパ節腫大を1割程度認めるが、腫大リンパ節のexon sequenceではATLLでみられる遺伝子変異は生じておらず、腫大リンパ節の移植による、レシピエントマウスでのリンパ節腫大の発症もみられないことから、生後1年ではリンパ腫は発症しないと考えられた。脾臓CD4+ T cellの分画を観察すると、経時的にTreg分画の減少とeffector/memory分画の増加がみられることから、HBZ-TgではHTLV-1キャリアに類似した慢性炎症様態が惹起されていると考えられ、白血病やリンパ腫の発症には付加的遺伝子異常が必須であることが示唆された。本年度は、ATLLで高頻度にみられるCARD11変異のノックインマウスの作成と解析を行った。同変異はTCR/NF-κB経路を活性化すると予想されていたが、実際マウス検体を用いた蛋白解析でもTCR/NF-κB経路の活性化が観察された。またATLLで特徴的な末梢血Treg分画の増加がマウス末梢血でも観察された。以上から、同マウスはATLL病態を部分的に反映しているモデルであると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
HBZトランスジェニックマウス、CARD11変異ノックインマウスの解析は順調である。CARD11変異ノックインマウスでは、蛋白解析でTCR/NF-κB経路の活性化が、末梢血解析でATLLに特徴的なTreg分画の増加が観察された。また、白血病やリンパ腫の発症が予想されるHBZ/CARD11 2重異常マウスの解析にも着手した。
HBZトランスジェニックマウス、CARD11変異ノックインマウスの各々の解析を行うとともに、白血病やリンパ腫の発症が予想されるHBZ/CARD11 2重異常マウス、あるいは既に樹立・解析済みでありDNA過剰メチル化を呈するTET2変異マウスと組み合わせた、HBZ/CARD11/TET2 3重異常マウスの作成・解析など進める。ATLL発症に必要十分な分子異常を明らかにし、ATLLの効果的な治療標的を同定し、多くの患者に許容可能な治癒的治療法の開発を目指す。
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Hematological Oncology
巻: 36 ページ: 651~655
10.1002/hon.2549