研究課題
本研究は、HTLV-I感染による成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)やEBウイルスが関与する悪性リンパ腫など潜伏感染ウイルスが関連するリンパ系腫瘍の発症及び進展におけるヒト組織適合性抗原(HLA)の意義を解明することを目的としている。次世代シーケンサーを用いてlong-range系PCRによるHLA遺伝子解析を行い、従来ほとんど情報の無かった非コード領域を含むHLA遺伝子の全領域の情報と患者の臨床情報を統合する。平成29年度は、沖縄県内の血液専門施設よりATLLを含むリンパ系悪性腫瘍の患者とHTLV-Iキャリアを前向きに登録して、外来での経過観察時や治療前、治療後など経時的に臨床データの収集と患者の検体保存を行うシステムを構築した。患者及びHTLV-Iキャリアの登録は順調に行われ、同一症例で経時的な変化を観察可能な症例も多く含まれている。ATLLの慢性型や急性型の患者では、末梢血中に腫瘍細胞が存在することが多い。腫瘍細胞に起こるHLA遺伝子異常の検出を容易にするために、腫瘍細胞と正常細胞を分離して、同一症例の腫瘍細胞と正常細胞におけるHLA遺伝子情報を比較する系を作成した。HTLV-I感染細胞及びATL細胞に特異的に発現しているcell adhesion molecule 1 (CADM1)を指標として、ATLL患者の末梢血単核球より磁気ビーズを用いて腫瘍細胞を分離し、正常細胞分画及びATLL細胞分画からDNAとRNAを抽出した。さらに、抽出したDNAとRNAを用いて現在HLA遺伝子解析と発現解析を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
潜伏感染ウイルスが関与するリンパ系腫瘍の中でも、沖縄県で好発するATLL症例の臨床データと検体を取集できるシステムを構築することが、研究実施のために必須である。平成29年度は本システム作りを精力的に進め、沖縄県内の血液専門施設と連携することで、効果的な研究推進が可能となった。また、患者検体からの腫瘍細胞の分離方法を確立し、次年度以降のHLA解析について、体制を整えることができた。
平成29年度に引き続き、患者の登録と検体の収集を行う。また、得られた検体より抽出したDNAを用いて、HLA-A, -B, -C, -DRB1, -DQB1, -DPA1, -DPB1遺伝子を、連携研究者である椎名らが開発したlong-range系 PCR法(Shiina T, et al. Tissue Antigens 2012;80:305)で増幅し、次世代シーケンサーで解析する。腫瘍細胞と正常細胞における遺伝子の変化を詳細に解析する。正常細胞で得られたHLAアリルデータを集計し、疾患のHLAハプロタイプ頻度をexpectation-maximization法で推定し、疾患感受性アリルやハプロタイプを同定する。
平成29年度は、主に患者登録と検体保存システムの構築を行った。現在までに保存された検体の一部を用いて、末梢血単核球からの腫瘍細胞の分離とHLA遺伝子解析及び発現解析を行った。今後、検体数を増やして解析を行うが、その試薬の購入を年度内にできなかった。次年度で、追加分の試薬を購入する予定である。
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