研究課題
本研究は、乳児期に感染が成立するHTLV-I (ヒトT細胞白血病ウイルス)が原因で発症する成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)や成人の大部分が潜伏感染しているEpstein-Barr ウイルスが関与する悪性リンパ腫など潜伏感染ウイルスが関連するリンパ系腫瘍の発症や進展において、ヒト組織適合性抗原(HLA)の意義を解明することを目的としている。これまで、主にATLの発症に特定のHLAが関与するのか、またATL細胞にどのようなHLAの遺伝子異常が生じるかか解析を進めている。ATLの患者とHTLV-Iキャリアを前向きに登録し、HLA class I及びclass II遺伝子のタイピングを行った。ATL患者においてHTLV-Iキャリアに比べて頻度の高いHLAアレルが認められ、キャリアからATLの発症に特定のHLAが関与している可能性が示唆された。また、ATL細胞に生じるHLA遺伝子の異常を解析するため、ATL急性型と慢性型の症例の末梢血よりATL細胞と正常細胞の各分画よりDNAを抽出し、long-range PCR法によるHLA遺伝子全領域の変異解析を行った。急性型ATLでは高率にHLA class I 遺伝子のloss of heterozygosity (LOH) もしくは非同義置換・挿入/欠失などタンパク質の構造に影響を及ぼしてHLAの発現を低下させる可能性を示唆する変異の存在を認めた。さらに、HLA class I遺伝子異常が認められた症例では、認められない症例よりも生存が悪い傾向があった。これらの結果より、ATLでは病勢の進行に伴いHLA遺伝子異常を獲得して、免疫から回避する細胞が増殖している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究期間内に構築したシステムによって、円滑に患者検体を保存し、解析を進めることができている。HLTV-IキャリアとATL患者のHLA解析を行い、アレル頻度やハプロタイプ頻度を解析し、ATLの発症と関連する可能性のあるHLAを検索し、特定のHLAがATL発症に関与している可能性を示すことができた。さらに、ATL細胞に生じるHLA遺伝子の異常の解析を行い、急性型ATLでは腫瘍細胞表面上で正常なHLAを発現できない遺伝子異常が生じる可能性を示すことができた。研究成果の学会発表を行い、英文論文としてまとめて投稿中である。
研究成果について英文論文としてまとめ現在投稿中である。この研究期間内に得られた成果をもとに、さらに多数例において腫瘍細胞のHLA遺伝子異常及びHLAのRNA発現解析を進めている。ゲノムレベルで生じるHLA遺伝子異常、RNA発現解析を臨床データと統合し、ATLに生じるHLA遺伝子異常のバイオマーカーとしての意義を明らかにする研究に繋げる予定である。
現在論文投稿中であるが、追加解析の必要性を考慮し、そのための試薬購入に使用する。また、論文公表のための費用に使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
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