T細胞性急性リンパ性白血病(T-cell acute lymphoblastic leukemia; T-ALL)は高悪性度の造血器腫瘍で、再発・難治症例の予後は未だに不良のため、分子病態に立脚した新たな治療戦略を開発する必要がある。とくに予後の悪化に直結する中枢神経再発を予防・治療する分子標的薬は臨床的に高い有用性が期待される。最近、申請者らはヒストン脱メチル化酵素LSD1がT-ALL発症のドライバー遺伝子であることを見いだした。そこで本課題において、理化学研究所・梅原崇史博士との共同研究によって新規のLSD1阻害薬を多数合成、T-ALLに対する有効性をスクリーニングし、臨床応用レベルの効果と特異性・安全性を有する化合物を同定した。LSD1阻害剤は経口投与が可能で、かつCNS移行の良好なものが多く、T-ALLの治療に高い優位性を有すると期待される。1)既存のLSD1阻害剤であるtranylcypromineを改変して、阻害活性と特異性を増強した誘導体を複数合成し、T-ALL細胞に対する効果をスクリーニングした。その結果、S2116とS2157の2つがT-ALLに対し臨床応用可能なレベルのIC50(1~5μM)を有することが確認できた。2)S2157はマウスT-ALLモデルにおいて腫瘍増殖を抑制し、生存率を有意に改善した。Day 21にマウスの脳を摘出し、病理組織検査を行ったところ、CNSに浸潤した腫瘍細胞がアポトーシスを起こしていることが確認された。3)S2116、S2157はT-ALLにおいてNOTCH3・TAL1・MYBの発現を抑制した。T-ALL細胞株にそれぞれを強発現したところ、殺細胞効果が有意に抑制された。4)S2158はdexamethasoneと強い相乗効果を示した。マウスT-ALLモデルにおいても両剤の併用により生存期間のさらなる延長が確認された。
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