研究課題/領域番号 |
17K09939
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
多林 孝之 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (60624898)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞内シグナル伝達経路 / 細胞周期チェックポイント / WEE1 / 多発性骨髄腫 |
研究実績の概要 |
多発性骨髄腫では種々の分子標的薬が開発されているが根治は不可能であり、とくにボルテゾミブ耐性は難治性であり予後不良である。我々は、細胞内シグナル伝達経路蛋白に注目して難治性多発性骨髄腫の克服を目指してきた。細胞がDNA損傷をきたすと核内シグナル伝達系が活性化し、p53, WEE1, cdc2などの細胞周期を制御する蛋白がリン酸化することによって細胞周期チェックポイント機構が働き、細胞周期を停止させて細胞修復を行う。腫瘍細胞ではp53遺伝子異常を有することが多いためp53が重要な役割を果たしているG1/Sチェックポイント機構が機能せず、WEE1やcdc2などによって制御されるG2/Mチェックポイント機構に依存する。また近年、固形腫瘍において細胞周期チェックポイント機構を阻害すると、細胞修復機能が阻害されることよって未熟な細胞分裂が行われ、最終的にアポトーシスに至ることが明らかになってきた。難治性多発性骨髄腫においてp53遺伝子の変異がおおく認められることとDNA損傷が認められることから、我々は、難治性多発性骨髄腫におけるDNA損傷時の核内シグナル伝達系、とくにG2/M細胞周期チェックポイント機構において重役な役割を担うWEE1注目し、その阻害剤による難治性多発性骨髄腫の克服を目指し研究を行っている。WEE1阻害剤を用いてボルテゾミブ感受性細胞株と耐性細胞株に対する作用を調べたところ、WEE1阻害剤は、濃度依存的、時間依存的目に両方の細胞の増殖を抑制した。作用機序を調べるためにセルサイクル解析とアポトーシス解析を行ったところ、WEE1阻害剤が細胞をS期とG2/M期に誘導し、アポトーシスを誘導することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
WEE1阻害剤単剤でボルテゾミブ感受性と耐性のいずれの多発性骨髄腫細胞に対してもアポトーシスを誘導し増殖を抑制することが明らかになった。また、その作用は、他の抗腫瘍薬である、アルキル化薬、アントラサイクリン、HDAC阻害薬と相乗的に抗腫瘍効果を示した。このことから、WEE1阻害剤と抗腫瘍効果薬の併用が、ボルテゾミブ耐性のような難治性多発性骨髄腫細胞に対して有効である可能性が示唆された。この結果は米国シカゴで開催されたAACR Annual Meeting 2018において発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
我々の研究では、WEE1阻害薬はp53の変異の有無に関係なく多発性骨髄腫に対してアポトーシスを誘導した。さらに、p53欠失細胞に対しても同様にアポトーシスを誘導した。このことからp53の変異や欠失に関係なく抗腫瘍効果を示す可能性が示唆された。また、アントラサイクリンのように直接DNA損傷をきたす抗腫瘍薬だけではなくHDAC阻害薬との併用においても相乗的な抗腫瘍効果が認められた。今後は、WEE1阻害剤と抗腫瘍効果薬併用による相乗的な抗腫瘍効果のメカニズム解析を、アレイ解析やウェスタンブロットによる核内シグナル伝達経路蛋白のリン酸化の解析などを用いて行うとともに、抗腫瘍効果が最大となるような、抗腫瘍薬のスクリーニングを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、標的分子を標的とした多発性骨髄腫に対する治療効果を最大限にするような併用薬の候補をスクリーニングすることを中心とした研究を行う計画であり、実際にその併用薬の候補が見出された。しかし、次年度には、その作用機序の解析をマイクロアレイ等にて詳細に解析する必要があるためより費用が必要性が生じた。
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