研究課題
難治性造血器腫瘍である多発性骨髄腫は、相次ぐ新規薬剤の開発により予後は著しく改善した。その一方で、予後不良の染色体異常であるdel17(TP53遺伝子欠損)やt(4;14)を有するハイリスク症例は、髄外形質細胞腫の形成や治療抵抗性といった悪性形質を獲得し、新規薬剤を用いても未だに予後は絶対不良である。本研究では、ハイリスク染色体異常陽性の骨髄腫細胞では、N-cadherinを含む間葉系遺伝子発現が更新しており、細胞分化の異常を来し固形癌に類した形質を持つようになることが臨床的悪性化につながるという作業仮説を証明してゆく。さらに、ハイリスク骨髄腫の悪性形質を克服する創薬研究も展開してゆく。我々は、新規フタルイミド体TC11を見いだし、最適化体として水溶液に溶解性が高いPEG-TC11の合成にも成功した。実際マウスに腹腔内投与した際に、TC11に比べて最高血中濃度および血中消失半減期は著明に改善し、ヒト骨髄腫xenograft腫瘍に対して強力なアポトーシスを誘導することを観察している。またPEG-TC11は、その化学構造式がサリドマイド類に類似しているが、催奇形性に関与するサリドマイド類の結合分子cereblonには結合しないことも明らかになった。さらにPEG-TC11は、骨髄腫細胞に対して強いG2/M細胞周期停止作用を有することも判明した。すなわち、ハイリスク骨髄腫細胞ではしばしばTP53遺伝子が欠失しているが、G2/M細胞周期停止にはその関与が少なく、PEG-TC11は有効にハイリスク骨髄腫細胞に細胞死を誘導すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は免疫調節薬(IMiDs)長期暴露細胞を4株作成し、それらがIMiDs以外にもプロテアソーム阻害薬やHDAC阻害薬にも抵抗性を示すことを明らかにした。さらに、耐性細胞ではN-cadherinをはじめとするmesenchymal遺伝子の発現が亢進していることを見出した。一方、我々はリプログラミング遺伝子(山中遺伝子)群が骨髄腫細胞において高発現していることを見出した。OCT4およびSOX2遺伝子の高発現細胞を樹立し、薬剤耐性獲得、クローン増殖性、mesenchymal分子の発現亢進について検討が進んでおり、リプログラミング遺伝子の異所性発現が、薬剤耐性など臨床的悪性化を引き起こすのではないかという作業仮説を打ち立ててゆく。一方、これまでにPEG-TC11の効率の良い合成法を確立し、マウスに腹腔内投与した際に従来のTC11に比べ飛躍的に薬物動態(とくにCmax)が改善すること、さらに強い腫瘍増殖遅延効果がえられることがわかった。本年度は、PEG-TC11がtubulin分子に直接結合しその重合阻害をきたすことによって、骨髄腫細胞をM期細胞周期停止からmitotic catastropheに陥いらせることを明らかにした。ハイリスク骨髄腫細胞では腫瘍抑制遺伝子TP53がしばしば欠失しているが、M期細胞周期停止にはP53蛋白質は関与していない。したがって、P53蛋白質を欠損するハイリスク骨髄腫細胞に対してもPEG-TC11は有効な治療薬になりうると考えられた。この他にも、天然化合物であるコマロビキノンの誘導体ライブラリーのスクリーニングを行い、GTN024の合成に成功し、そのin vivoにおけるハイリスク骨髄腫細胞のアポトーシス誘導を報告した。
2019年度においても、IMiDs長期暴露細胞の遺伝子発現について網羅的解析を推し進め、cereblonやその基質群以外に薬剤耐性に関わる遺伝子を分離してゆく。同時に、OCT4をはじめとするリプログラミング遺伝子高発現細胞を用いて、骨髄腫細胞が間葉系細胞に脱分化し薬剤耐性やクローン増殖性を獲得し、髄外形質細胞種形成に関わるという作業仮説を証明して行く。PEG-TC11について、結合分子であるnucleophosmin1(NPM1)の多量体形成やリン酸化への効果について検討を進めてゆく。とくにmitotic kinaseであるCDK1やPLK1を介したNPM1のリン酸化についてデータを蓄積し、G2/M期の細胞分裂の際に多核化や多極化を引き起こすかについて検討を進める。コマロビキノン誘導体においては、毒性が低いGTN057の合成にも成功し、in vivoでの有効性や薬物動態についてデータが蓄積されている。その薬理作用についても検討を進め、チロシンキナーゼ阻害や免疫学的効果を明らかにしてゆく。
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Biochem Biophys Res Commun.
巻: 505 ページ: 787-793
10.1016/j.bbrc.2018.09.177.