研究実績の概要 |
慢性GVHDモデルである, B10.D2→BALB/cの骨髄移植を行った。レシピエントであるBALB/cマウスに前処置として全身放射線照射7Gyを行い, マイナー組織適合抗原不一致であるB10.D2 (Allo群)から採取した骨髄細胞5×10^6個と脾細胞2.5×10^7個を輸注したところ, 移植後day20頃から皮膚の硬化性病変が出現した。Day42に背部の皮膚を採取し, 線維化の評価を行ったところ, GVHDを発症したマウスでは, MT染色で有意に線維化部位の面積が増加しており, 径5mmの皮膚あたりのコラーゲンも増加していた。蛍光免疫染色の結果, 慢性GVHDによる線維化が生じている皮膚では, F4/80陽性マクロファージの著明な増加とHSP47陽性alpha-SMA陽性の筋線維芽細胞が著明に増加しており, マクロファージはTGF-betaを産生していることが判明した。マウスの皮膚から分離した線維芽細胞に, TGF-betaを加えて培養すると, HSP47の発現が増強し, 筋線維芽細胞に分化することが判明した。つまり, マクロファージに産生されるTGF-betaが, 筋線維芽細胞の活性化に寄与していると考えられた。抗CSF-1抗体によるマクロファージ除去を行うと, 筋線維芽細胞の集積が見られなくなり線維化も改善された。筋線維芽細胞を標的とした新規薬剤輸送システムである, ビタミンA結合リポソーム(VA-lip)を利用して, 筋線維芽細胞にHSP47 siRNAを作用させ, HSP47分子をノックダウンしたところ, 筋線維芽細胞は減少し, GVHDによる線維化が著明に改善した。ここまでの結果をBlood誌に投稿し掲載された(Blood. 2018 Mar 29;131(13):1476-1485)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の平成29年度の予定であった, 皮膚慢性GVHDの線維化評価法の確立は問題なく達成できた。免疫細胞のフローサイトメトリー法での評価は, 当初皮膚からの細胞懸濁液の作製が困難であり, 十分量の細胞を採取することができなかったが, 皮下脂肪を可能な限り除去することによって, 測定可能となった。炎症性マクロファージの浸潤のメカニズムについては, CSF-1レセプター抗体でほぼ完全に抑制することができたので, 慢性GVHDのマクロファージ浸潤はCSF-1に依存することも解明された。CSF-1レセプターのシグナルは, 特にLy6C陰性単球の生存に必須であるので (Hashimoto, et al. J Exp Med 2011), これらの炎症性マクロファージの前駆細胞はLy6C陰性単球である可能性が高いと考えられる。さらに, 当初は平成30年度に予定されていた, 慢性GVHDによる皮膚線維化の新規治療法の確立のため, 非常に興味深い知見を得ることもできた。皮膚に浸潤する筋線維芽細胞にHSP47が発現することに着目し, HSP47抑制による皮膚慢性GVHDの線維化治療法を確立することができた。さらに, 治療法の臨床応用に向けて研究を続行する必要があるものの, この時点で1報の論文も発表できた。当初の計画より早い速度で研究は進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られた, HSP47 siRNA含有VA-lipを用いた, 筋線維芽細胞を標的とする慢性GVHD治療法は, 治療標的が限定されていて, 副作用を考える上で非常に有利である。しかし, 慢性GVHDによる線維化病変は全身の様々な臓器や組織に生じる可能性があり, 皮膚の線維化以外の多臓器にわたる線維化に対して, 本治療法が効果があるか否かを検討する必要がある。また, 逆に線維化がみられる、臓器や組織が限局しているような症例では, HSP47 siRNA含有VA-lipの全身投与は治療のコストが高く, 局所療法が望ましいと考えられる。特に, 慢性GVHDにおける涙腺や唾液腺や肺の線維化は, 患者の生活の質(QOL)を著しく阻害し, 大きな苦痛を与えることとなる。こうした, 特定の臓器に強く現れる線維化を治療するため, 涙腺であれば点眼, 唾液腺であれば含嗽, 肺であれば気管内投与などでの HSP47 siRNA含有VA-lipの使用が望ましい。こうした観点から, 引き続きマウスモデルを用いて全身の様々な臓器の慢性GVHDによる線維化の治療法を, HSP47 siRNA含有VA-lipを始めとして, その他の新規線維化阻害剤を用いて, 全身性, 局所性の新規治療法を確立すべく, 研究を続行している。またこうした新しい線維化治療法で, 移植の抗腫瘍効果が減弱しないかどうかを検討する必要もあるので, 次年度移行に研究を行う予定である。
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