研究実績の概要 |
昨年度にBlood誌に報告した慢性GVHDによる皮膚線維化に対するHSP47 siRNA標的療法に関する研究(Blood. 2018, 131(13): 1476)をさらに発展させた。本年度は, 移植後慢性GVHD患者の生活の質を著しく障害する, ドライアイ症候群の発症機序を解明した。RecipientであるBALB/cマウスに前処置として全身放射線照射7Gyを行い, マイナー組織適合抗 原不一致であるB10.D2 (Allo群)から採取した骨髄細胞5×10^6個と脾細胞2.5×10^7個を輸注すると慢性GVHDが発症する。こうしたマウスの涙腺を採取して組織標本を観察すると, HSP47陽性の線維芽細胞が多数集積し, 涙腺の線維化が生じていることが判明した。皮膚の線維化病変とは異なり, これらの活性化した線維芽細胞にはalpha-SMAが陰性であり, 筋線維芽細胞とは異なる細胞であった。同時期にマウスの涙液産生量をシルマー試験により測定すると, 著明に低下しており, GVHDによるドライアイ症候群が発症していることが確認された。慢性GVHDによるドライアイ症候群の発症メカニズムに, 涙腺の線維化があることが示唆されたため, HSP47を標的とするVitamin A結合Liposome(VA-lip)の点眼薬を作成し, 移植後のマウスに点眼し, 涙腺の観察を行ったところ, HSP47陽性線維芽細胞が著明に減少し, 線維化領域が縮小していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
皮膚慢性GVHDのMacrophage-筋線維芽細胞系を標的とした慢性GVHD治療法の開発に関しては, 既に昨年度末に論文発表が可能であった。本年度は, さらにその他の臓器での慢性GVHDのMacrophage-筋線維芽細胞系を標的とする治療法の開発に進んでいる。本年度は, 慢性GVHDのドライアイの発症機序を解明し, さらにHSP47を標的とするVitamin A結合Liposome(VA-lip)の点眼薬というこれまで全く考えられていなかった治療法の開発を進めることが出来ており, 計画以上の進展と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中の, 慢性GVHDにおけるドライアイ症候群に対する, Macrophage-筋線維芽細胞系を標的する新規治療法の研究を, さらなる治療効果を示して論文発表につなげたい。HSP47を標的とするVitamin A結合Liposome(VA-lip)に関しては, 現在米国で肝臓の線維化である肝硬変で臨床治験が進められている。本研究の知見から, 本治療法は慢性GVHDにおける様々な臓器の線維化に有用である可能性が示唆されており臨床応用が待たれる。今後は, 臨床試験も目指して製薬会社との協力が必要と考えられる。また, こうした新規治療薬に関しては薬剤費の上昇が社会問題となっているが, 本研究で使用された点眼薬の様に, ごく少量の薬剤で効果を発揮できる場合は, 医療経済的にも有利であり臨床応用につなげたい。
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