研究課題/領域番号 |
17K09946
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
栗田 尚樹 筑波大学, 医学医療系, 講師 (30555561)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 臍帯血移植 / 巨核球前駆細胞 / 骨髄内移植 |
研究実績の概要 |
これまで巨核球は,巨核球・赤芽球共通前駆細胞を経て分化することが想定されてきた.これに対し,血小板需要が高まった状況では,全く新しい細胞分画である巨核球前駆細胞を経て巨核球への分化が生じることを,申請者らのグループは見出した.申請者は,臍帯血を骨髄内に移植する臨床試験において血小板回復が促進されることを既に示したが,この現象は骨髄内移植が巨核球前駆細胞の生着,増殖,分化に寄与したためという仮説を立てた.本研究の目的は造血幹細胞移植マウスモデルおよび臨床検体を用いて,その仮説を証明することである.また巨核球前駆細胞の分化にはトロンボポエチンが必要不可欠であり,更に骨髄間質細胞はトロンボポエチンの産生源のひとつであることを示す予備データを得たため,骨髄において造血幹細胞近傍で産生されるトロンボポエチンが巨核球前駆細胞の分化を制御しているという仮説を立て,それを分子学的に証明することを目的として実験を行った. 骨髄微小環境において巨核球前駆細胞造血を促進する因子を探索した.その結果,骨髄中の間質細胞のうち,ICAM-1+,PECAM1-間質細胞には,造血幹細胞の維持に必要なSCF,CXCL12と同時にトロンボポエチン(TPO)の発現を認めた.また骨組織をコラゲナーゼ処理して得られた,骨皮質近傍に存在するSca1-,PDGFRα+細胞にもTPOが発現していた.これらの細胞は,造血幹細胞のごく近傍においてTPO濃度を制御している可能性がある.巨核球前駆細胞の分化にはTPOが不可欠であることから,肝臓由来のTPOに加えて,骨髄局所において産生されたTPOが重要な役割を果たしている可能性を見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,骨髄微小環境において巨核球前駆細胞造血を促進する因子を探索した.その結果,骨髄中の間質細胞のうち,ICAM-1+,PECAM1-間質細胞には,造血幹細胞の維持に必要なSCF,CXCL12と同時にトロンボポエチン(TPO)の発現を認めた.また骨組織をコラゲナーゼ処理して得られた,骨皮質近傍に存在するSca1-,PDGFRα+細胞にもTPOが発現していた.これらの細胞は,造血幹細胞のごく近傍においてTPO濃度を制御している可能性がある.巨核球前駆細胞の分化にはTPOが不可欠であることから,肝臓由来のTPOに加えて,骨髄局所において産生されたTPOが重要な役割を果たしている可能性を見出した. また,本研究と関連する第I/II相臨床試験である「臍帯血移植後早期のTPO受容体作動薬投与」に関して,医薬品医療機器総合機構の事前相談,対面助言を終了し,またプロトコル作成を実施している.
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今後の研究の推進方策 |
(1) TPO欠損マウスにおける巨核球前駆細胞の観察 TPO欠損マウスでは,末梢血中の血小板数及び骨髄中の巨核球数は著しく減少する.同マウスでは肝臓や腎臓を始めとしたsystemicなTPO産生に加え,骨髄間質におけるTPO産生も同時に欠損している筈である.同マウスに対し,TPOを外部より投与することで,肝由来のsystemicなTPO産生のみを模倣でき,あるいは野生型マウスから骨髄間葉系幹細胞を移植することで,骨髄間質からのTPO産生のみが回復すると予想される.これらの処置の後に骨髄中の巨核球前駆細胞を観察することで,骨髄局所で産生されたTPOの,巨核球前駆細胞の分化・増殖に対する役割を明らかにする. (2) 臨床検体によるTPO産生細胞の解析 TPOにより巨核球前駆細胞の分化が促進されるという知見をもとに,申請者らは臍帯血移植後にTPO受容体作動薬であるロミプロスチムを投与する臨床試験を計画している.この臨床試験において採取された骨髄生検検体の残余をコラゲナーゼ処理(コラゲナーゼI+II,各0.1%)する事で骨芽細胞・間質細胞を単離し,単細胞レベルでのTPOの発現をはじめとした遺伝子発現解析を試みる.また投与前の骨髄細胞を解析し,TPO発現量から,移植後のTPO受容体作動薬の反応性を予測できるか否か検討する.
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