研究課題
前年度から引き続き、治療抵抗性成人T細胞白血病(ATL)に対する新規キメラ型抗原受容体遺伝子を用いる細胞免疫療法の開発を進めている。これまでに報告した臨床的に利用可能な全ての癌治療用モノクローナル抗体を抗原認識部位に利用できる万能型CAR-T細胞がATL治療に応用できることを論文報告した。現在はATL細胞にその発現しているがん・精巣抗原であるNY-ESO-1をHLA-A2拘束性に認識する一本鎖のNY-ESO-1/HLA-A2複合体特異的モノクローナル抗体を開発し、その抗体の遺伝子導入を行うことで、NY-ESO-1/HLA-A2複合体特異的CAR-T細胞を作成することに成功した。NY-ESO-1/HLA-A2特異的CAR-T細胞の機能解析は、HLA-A2遺伝子を導入したK562細胞にNY-ESO-1を強制発現させた細胞や、NY-ESO-1とHLA-A2の両方の発現が確認されている骨髄腫の細胞株(U266、KMS18)等を標的細胞として行い、このCAR-T細胞がHLA-A2/NY-ESO-1に特異的な抗腫瘍効果を発現する事を、サイトカイン産生や細胞障害活性等の実験で確認した。さらには、このNY-ESO-1/HLA-A2複合体特異的モノクローナル抗体をもとに、NY-ESO-1/HLA-A2複合体とT細胞のCD3への二重特異性抗体(BiTE)も開発し、CAR-T細胞での機能解析と同様にNY-ESO-1/HLA-A2遺伝子導入K562細胞、NY-ESO-1/HLA-A2発現骨髄腫細胞株に対する抗腫瘍効果を確認した。CAR-T細胞およびBiTEの抗腫瘍効果の比較検討については、細胞実験とマウスを使った動物実験を現在行っている。
2: おおむね順調に進展している
ATL細胞に発現が報告されている、がん精巣抗原NY-ESO-1をHLA-A2拘束性に認識するT細胞受容体(TCR)を同定し、TCRを遺伝子導入した細胞を用いて、その細胞障害性の確認実験を行った。併せて、NY-ESO-1/HLA-A2複合体特異的モノクローナル抗体を用いて、CAR-T細胞の作成も行った。このCAR-T細胞は、in vitroにおいてNY-ESO-1遺伝子とHLA-A2遺伝子を導入した白血病細胞K562を認識して効果的に殺傷した。さらにHLA-A2とNY-ESO-1の発現が確認されている多発性骨髄腫細胞株を用いた機能評価でも、K562細胞を用いた実験と同様に、HLA-A2拘束性に標的細胞を認識し、細胞障害活性を発揮することを確認した。さらには、このNY-ESO-1/HLA-A2複合体特異的モノクローナル抗体を基にNY-ESO-1/HLA-A2複合体とT細胞の細胞表面のCD3に対するBiTEの作成も行い、同様の標的細胞を用いて機能解析を行い、CAR-T細胞との抗腫瘍効果における作用の比較検討を行った。これまでの実験結果においては、我々の作成したCAR-T細胞とBiTEでは、どちらも同様の抗腫瘍効果が認められることが確認できた。またin vivo の実験としてHLA-A2/NY-ESO-1陽性の骨髄腫細胞株であるU266にルシフェラーゼ遺伝子を導入した細胞株をNOGマウスに接種し、CAR-T細胞およびBiTEによる抗腫瘍効果を確認する実験において、CAR-T細胞、BiTEのいずれも、有意な腫瘍増大抑制効果が認められた。
現在我々は、骨髄腫細胞を用いてこのCAR-T細胞、BiTEの詳細な機能評価を行い、in vitro, in vivo 実験によりその有効性を確認しているが、ATL患者検体での解析は十分でない。疾患の希少性からHLA-A2陽性かつNY-ESO-1発現が強いATL患者細胞が得難いため、HLA-A2陽性のATL細胞株を用いて、NY-ESO-1遺伝子を導入してモデル細胞株を作製し実験の進行を早めるとともに、平成31年度も引き続きHLA-A2陽性かつNY-ESO-1高発現のATL患者のリクルートを行い、患者検体での検討を中心に研究を進める。加えてCAR-T細胞、BiTEを用いた治療は、いずれもエフェクター細胞として患者のT細胞が必要である。ATL患者におけるエフェクターとしてのT細胞の機能評価も併せて行い、CAR-T細胞に効果的に誘導できる培養条件や、生体内でのBiTEのさらなる効果が得られる至適投与量、投与方法など、有効性をさらに向上させる方法の検討を進める。さらには ATL細胞が発現している免疫チェックポイント分子PD-L1との関連性も検討し、CAR-T細胞、BiTEと免疫チェックポイント阻害剤との併用効果の検討を進める。また、分担研究者等は同種造血幹細胞移植後再発ATLを対象に、健常者ドナーリンパ球にNY-ESO-1/HLA-A2特異的TCR遺伝子を導入したTCR-T細胞を用いる医師主導第1相治験を進めており、我々の作成したCAR-T細胞とBiTEにおける抗ATL効果を検討する際の重要な臨床データが得られると考えている。
研究計画の内容に従って、ベクター開発、細胞培養関連、遺伝子導入試薬、NOGマウス購入と飼育、in vivo imaging実験の費用に研究費を充てる。また、現在得られた結果を、学会等で成果を発表する旅費や国際雑誌に論文発表する経費等にその一部を充てる。
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すべて 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
https://www.m.ehime-u.ac.jp/school/int.med1/