研究実績の概要 |
現在までに4頭のX-SCIDピッグ(生後約1か月)に対して造血幹細胞の自家移植実験を実施した。すなわち、正常IL2RG遺伝子を発現できるように遺伝子改変したピッグ造血幹細胞を自家移植した。4頭のうち3頭は移植2~3ヶ月後、免疫系が再構築される前にいずれも感染症Xで死亡した。病原体xは人間の感染症起因菌としては珍しいものであった。病原体Xフリーの環境下でX-SCIDピッグを飼育したところ6ヶ月の生存が得られた。 移植後死亡した4頭のうち残りの1頭は生着不全が死亡原因であった。これを回避するためには、より多くの造血幹細胞を移植することが重要となる。これまでピッグ造血幹細胞は、ピッグ骨髄細胞から各種分化マーカー陽性細胞を除去したもの(Lin-)を使用していた。しかし、これだけでは濃縮率は不十分であり、大量の造血幹細胞の調達を困難にしていた。そこで、ピッグ細胞に交差するCD34抗体を見出し、Lin-にCD34を組み合わせることで、造血幹細胞の濃縮率を5.2倍高めることに成功した(コロニーアッセイによる)。 ヒトやマウスにおいて造血幹細胞の培養にはstem cell factor, thrombopoietin, Flt-3 ligand (SCF/TPO/FL)が必須とされている。ピッグと交差するこれらサイトカインの確保は困難であったことも、大量のピッグ造血幹細胞の調達を困難にしている原因の一つだった。そこで、これらのピッグサイトカインを安定的に供給する体制を構築した。具体的には、これらのサイトカインを発現するピッグcDNAをクローニングした。クローニングしたサイトカインcDNAを適当な細胞に強制発現させ、その培養上清をピッグ造血細胞の培養液に添加したところ、細胞のチミジン取り込み量の増加が認められた。チミジン取り込みの増加量は、マウスのサイトカインをマウス造血幹細胞(Lin-)に加えた場合と同程度であった。
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