研究課題/領域番号 |
17K09961
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山崎 理絵 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (80365262)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒトヘルペスウイルス6型再活性化 / 造血幹細胞移植 / 免疫再構築 |
研究実績の概要 |
ヒトヘルペスウイルス6型HHV-6(HHV-6)の同種造血幹細胞移植後の再活性化について、下記の解析を行った。 ①液性免疫の評価:ELISA法およびIF法にて、移植前患者の抗HHV-6抗体価を42例について測定した。既報と異なり、再活性化と抗体価には相関を認めなかったが、移植前抗体価の低かった患者では、移植後HHV-6高コピー再活性化や感染症発症に対し治療介入した症例が有意に多いことがわかった。移植後抗HHV-6抗体価を3か月後まで継時的に測定すると、臍帯血移植後症例では非臍帯血移植症例に比べ、抗体価が有意に低下していくことがわかった。以上より、HHV6感染症発症への患者のウイルス特異的液性免疫の関与が示唆された。 ②ウイルス量の評価:リアルタイムPCRに加え、前初期 (immediate early: IE) 遺伝子をターゲットとしたデジタルPCR(dPCR)の系を構築し、これにより移植後1週間ごとにウイルス量のモニタリングを行った。まず末梢血有核細胞のうちCD4陽性リンパ球におけるウイルスDNA量が多いことが確認し、5例の臍帯血移植患者においてCD4陽性リンパ球および血漿でdPCRモニタリングを行った。CD4リンパ球のdPCRにおいては、血漿リアルタイムPCR陽性化とほぼ同時期にウイルス陽性化が確認された。 26例の血漿サンプルについて、両測定法の比較を行ったところ、良好な相関関係が認められた。リアルタイムPCRでは26例中11例にHHV-6の再活性化が認められた。一方で、リアルタイムPCRで再活性化を認めなかった15例のうち4例でdPCRでのみIEが検出された。またリアルタイムPCRで再活性化を認めた11例のうち3例では、dPCRで1週間前からIEの検出が可能であり、移植後早期の患者血漿を用いたdPCRはHHV-6再活性化の早期検出に有用であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.研究対象者の登録: 症例数は予想通り蓄積できているが、高度再活性化や感染症を発症する症例が予想より少なかったため、今後の症例の蓄積が期待される。 2.液性免疫、細胞性免疫に関する解析: 当初予定していたELISPOT法による細胞免疫の評価については、条件によるばらつきが大きく定量的評価が難しいことから解析法の変更が必要と考えられ、別の側面からのアプローチを検討している。ELISA法およびIF法による抗体価の評価についてはほぼ予定通り進行している。 3.HHV-6ウイルス量の評価: デジタルPCR解析については、当初臍帯血移植後のリンパ球分画を見ることで早期の診断が可能になると考えていたが、細胞内のウイルス増殖は血漿におけるそれとほぼ同時期であることがわかったため、現在はリンパ球での解析は最小限にとどめ、血漿での解析を主に進めている。 4.細胞表面マーカーの解析: CD134陽性細胞に着目した解析も同時進行で行っている。各症例について、細胞表面マーカーの解析を進めるとともに、CD134陽性細胞を回収しRNAを抽出し、マイクロアレイ解析を行い、現在ウイルス感染と関連する分子、CD134陽性細胞に特徴的に発現する分子を抽出しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
1.研究対象者の登録: 引き続き、臍帯血移植症例を中心に、登録症例数を増やしていく予定である。 2.液性免疫・細胞性免疫に関する解析: テトラマー解析については、解析可能なA*0201陽性症例が数例集まったので今後解析を進める予定である。抗体価に関する解析については、これまでのデータを集計し論文報告とする。 3.ウイルス量の評価: 移植後早期の細胞を用いた解析については、患者のリンパ球の回復程度により、解析可能な症例が限定されてしまうため、今後も引き続き症例を蓄積していく必要がある。また血漿ウイルス量のデジタルPCRによるモニタリングが感染症早期診断の一助のとなるか、臨床情報を収集し解析を進める。 4.細胞表面マーカーの解析: 早期のCD134陽性細胞比率、それ以外のリンパ球の免疫再構築状況については、データの解析に移行する。ソーティングしたCD134陽性細胞のマイクロアレイ結果から、CD134と連動して高発現する遺伝子を抽出し、早期のCD134陽性細胞の機能の探索とHHV-6再活性化に関与する分子の同定をめざす。今年度以降は、移植後早期患者のCD4陽性細胞のRNAを抽出し、RT-PCRを行って各候補遺伝子の発現解析を行う予定である。
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