研究実績の概要 |
私たちは, GATA2コンディショニングノックアウトマウスを樹立した. GATA2floxマウスはGATA2のDNA結合に重要なエクソン5の両端にfloxを入れており、そのマウスにER-Creマウスと掛け合わせる. マウスのER-Creは細胞特異的なプロモーターで制御されてなく、エストロゲン(タモキシフェン)投与によりGATA2のエクソン5が欠損することで全身のGATA2の機能欠損を来たす. 以下の4つの条件で比較検討することとした。flox/flox, flox/flox-ER-Cre,マウスにおいてそれぞれ、タモキシフェンの導入または、非導入(PBS導入)で比較検討した. 生後10-12週のマウスを, 低酸素室(10%酸素)で飼育し, タモキシフェンを腹腔内投与しday 20-22に肺動脈性肺高血圧症の誘導の有無を解析した. 肺病変は、肺動脈のリモデリングの有無や, 炎症細胞浸潤の程度をスコアリングをする. 心臓は, 右心負荷の有無を評価した. GATA2-KOマウスでは,一部, 肺動脈の弾性板が解離しており,この解離の程度を100カ所の動脈で確認し,リモデリングの指標とした. ヒトの肺動脈性肺高血圧症症例のGATA2や自然リンパ球に関する遺伝子解析も進めている。DNAおよび血清・血漿・末梢血単核細胞を保存している。一部の検体でLin-CD127+ ILC2 を,さらにIL-33R ないしCRTH2 陽性のサブセットに分けて、フローサイトメトリーで評価を試みている。(Lin-= CD3,CD4, CD8, CD19, CD56, CD14 neg)。しかし、末梢血中では、ごく限られた分画であり、評価に難渋している。ILC2に関与する転写因子GATA3の発現をみるなど、細胞レベルでなく、遺伝子レベルでの解析が必要となる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
flox/flox, flox/flox-ER-Cre,マウスを飼育しているが, ある程度の数が育たないと、実験を進められない。 ヒトのII型自然リンパ球(ILC2)は、皮膚、肺、脂肪組織に多く存在するが、末梢血における、II型自然リンパ球の割合は、非常に少ないため、これを抽出して機能解析するのは難しいかも知れない。
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今後の研究の推進方策 |
マウスの研究に関しては、flox/flox, flox/flox-ER-Cre,マウスを引き続き飼育し、上記の条件下で肺高血圧症お誘導を試みる。これまでにも、肺高血圧症を誘導したいくつかの検体で、肺組織を摘出し、保存してあるので、免疫染色にて、GATA2, GATA3, ILC2の分布の確認を試みる。 ヒトのPAH症例のGATA2や自然リンパ球に関する実験は、細胞数が少なく、培養などでの機能的解析が難しい可能性がある。この場合、遺伝子解析も進めていく。具体的には、ヒト染色体の30億の塩基対の内、99.9%は個人間で塩基配列は同じで、残り0.1%の塩基配列で個人間の差があります。 この約1,000塩基対に1つ程度の変異をSNPと呼ぶ。これまでに東北大学では約2000症例の健常者の全ゲノム解析が終了している。これらの健常者とPAH症例のGATA2、ILC2に関連する遺伝子を解析し、連鎖解析などを行い、GATA2やILC2の発現の意義について検討する。なお、当院の循環器内科との共同研究により、ヒトPAH症例における遺伝子解析の倫理審査は承認済である。
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