研究課題/領域番号 |
17K09997
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩崎 由希子 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (30592935)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 全身性エリテマトーデス / B細胞 / インターフェロンシグナル / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
本研究は、STAT4の一塩基多型(SNP)が全身性エリテマトーデス(SLE)の疾患感受性遺伝子として広く認識されているにも関わらず、その病態形成への関与の詳細が不明であるという事実に臨床的・研究的疑問の端を発した。申請者らはSLEおよび健常人の各リンパ球サブセットにおけるリン酸化STATの細胞内染色の検討から、SLE患者B細胞においてSTAT1のリン酸化亢進と相対的なSTAT4のリン酸化減弱傾向を確認し、この機構の解明がSLE患者におけるB細胞の病態解明に繋がると予想した。STAT4欠損マウスを用い、TLR7 agonistであるimiquimod誘導ループスモデルマウス系および、B細胞の抗体産生細胞分化系として知られるTLR9とtype I IFNの共刺激を用いた実験系によりSTAT4がSLEの病態形成において抑制性に働いていると考えられた。 STAT1,4が関与する経路としては、第一にtype I interferon (IFN)であることが想定され、まずはヒトでの検証が今後の病態解明のために重要と考えたことから、健常人由来のB細胞を分取し、IFN-alphaにて刺激を行ったところ、既知のSTAT1のリン酸化(pSTAT1)は明瞭に認めるものの、STAT4のリン酸化(pSTAT4)については僅かな亢進に留まり、IFN-alpha刺激下におけるpSTAT4の変動に関し一貫した傾向を実験的に得ることが困難であった。 このことから、SLEの疾患感受性遺伝子多型が意味することの解明という原点に立ち返り、当研究室における竹島および申請者らのSLEおよび健常人由来の各末梢血免疫担当サブセットのトランスクリプトーム解析結果を用い、B細胞におけるtype I IFN signal制御を介してSLEの病態形成に働く可能性のある分子の同定という切り口に研究を展開する方針とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度前半において、STAT4欠損マウスおよび野生型マウス由来のB細胞を用い、type I IFNとTLR9のコンビネーションによる抗体産生細胞(plasmablast/plasma cell)分化の実験系で、STAT4欠損によりこれらの細胞分化が亢進するという裏付けはとれたものの、type I IFNであるIFN-alphaにてヒトB細胞を刺激する実験では、pSTAT1の亢進は既報通りに認めるものの、pSTAT4の動きについては一貫した傾向を得るのが難しいと判断した。 このため、竹島および申請者らが解析を継続しているSLEおよび健常人由来の各末梢血免疫担当サブセットからのRNAシークエンス結果から、発現変動遺伝子やネットワーク解析の手法によりSLEの病態形成に重要なサブセットとパスウェイないし分子の選別を試みた。選別における着眼点としては、同解析からSLEの病態形成においてB細胞サブセットの重要性が予測されたことから、本課題の当初のプロジェクトにおいてもB細胞が重要と想定していたことを考慮し、B細胞においてSLEと健常人の間で発現変動があり、かつSLEのGWAS(genome-wide association study)のSNPにおける連鎖不均衡領域にある遺伝子の中からgene Xを有望な候補として考えた。 Gene Xのよく知られた役割は抗酸化作用であり、ミトコンドリアから産生される活性酸素の制御などを介してB細胞の抗体産生細胞への分化に関与していることを仮説とした(Nat Commun 2015;6:6750)。現在までにGene Xのノックアウトマウスを作成し、ループスモデルにおいて、疾患が増悪する方向に働く可能性があることを捉えつつある。当初の研究目的から具体的な分子は変更となったものの、SLEの病態解明に繋がる研究として一定の進捗を得ていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Gene Xのノックアウトマウスがimiquimod誘導性ループスモデルの系で病勢増悪傾向を示すことの分子細胞学的機構の解明を行うことで、SLEの病態形成における分子学的基盤の理解を深めることを新たな課題とする。具体的には、Gene XがB細胞においてSLEと健常人の発現変動遺伝子として検出されていることに加え、本研究課題当初より、type I IFNの下流での作用が病態における重要な意味をもっていると想定されるリン酸化STAT1とSATAT4のバランスが、B細胞において特徴的に認めたことを鑑み、まずはGene X欠損が抗体産生細胞分化にどのような影響をもたらすのか、という観点から課題に取り組む方針である。加えて、当該マウスにおける二次リンパ組織である脾臓を構成するリンパ球サブセットの分画を網羅的に検討し、B細胞以外に、影響を受けているサブセットがないかを検証する。興味深いサブセットが同定されれば、その細胞における機能解析を、SLEの病態における意義という観点に基づき適切な免疫学的実験系を構築し、検討を行う予定である。
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