研究課題/領域番号 |
17K10000
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 孝作 京都大学, 医学研究科, 助教 (70599927)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | FPR2 / 実験的関節炎 / SREBP1 / 膝蓋下脂肪組織 |
研究実績の概要 |
関節炎におけるFPR2 (formyl peptide receptor2)の機能について:2018年度の研究において、T細胞表面上のFPR2陽性細胞がごく少数であったことが明らかとなった。すなわちT細胞ではなく、既報通り単球・マクロファージ系においてFPR2の機能が重要であると考えられたため、関節炎の発症の時間的経過とFPR2の発現量の解析を行った。 実験1:ウシType IIコラーゲンにて誘導される実験的関節炎において、FPR2のリガンドであるResolvin D1(RvD1)を抗原投与後より合計8日間、100μgずつ腹腔内投与を行った。その後の関節炎の変化についてコントロール群と比較したが、関節腫脹の程度に関して有意な違いは認められなかった。また、関節炎誘導マウスにおいて抗原刺激前後における脾細胞およびリンパ節内のFPR2蛋白発現量をウエスタンブロッティング法を用いて確認したところ、FPR2はリンパ節では蛋白発現が認められず、脾細胞においては抗原刺激前には発現を認めたのに対して抗原刺激後7日以後より発現が消失することが判明した。 実験2:2017年に発表された大石らの報告(Cell Metabolism 25, 412-427, 2017)では、転写因子の一つであるSterol regulatory element-binding protein (SREBP)-1がTLR4刺激に応答してRvD1の基質であるドコサヘキサエン酸発現を誘導することが明らかとなった。我々は、ヒト変形性関節症(OA)もしくは関節リウマチ(RA)の手術時に獲得し得た脂肪組織を用いて、組織内マクロファージにおけるSREBP1の発現量を検討した。その結果、SREBP1はOA, RAともに皮下脂肪と比較して、より炎症局所に近い膝蓋下脂肪組織において発現量が低下していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
FPR2が関節炎の病態に関わる影響について:コラーゲン誘導性関節炎モデルマウスにおいて、我々の検討ではRvD1投与による関節炎の重症度が抑制されることを期待したが、コントロール群と比較して有意な差は得られなかった。その理由として、RvD1の1回投与量、あるいは投与期間が不足していた可能性が考えられた。また、本検討では抗原刺激と同時にRvD1投与を行ったが、刺激前の数日間においてRvD1を前投与するほうが効果を示すことができた可能性もある。RvD1は脂質分子であり、繊細な管理が必要であることも遠因かもしれない。さらに、本検討内でも示したとおり、この関節炎モデルにおいては炎症誘導に伴いFPR2の発現が著しく抑制されていた。受容体が細胞表面に表出されなかったためにRvD1の機能が最大化されなかった可能性も考慮するべきである。 SREBP1が関節炎の病態に関わる影響について:本年度はヒト手術検体を用いて、脂肪酸合成に重要な転写因子であるSREBP1の発現量を解析することから開始した。マクロファージにおけるSREBP1発現量を比較する上で皮下脂肪組織と膝蓋下脂肪組織の両者を同一患者で獲得できることにが可能であったため、同じ組織においても炎症環境の高低によってSREBP1の発現量に差異が生まれることを示すことができた。この知見を踏まえ、SREBP1の機能についてモデル動物を用いて検証を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
FPR2研究においては、以下に示す2点を研究課題とする。 課題1.FPR2蛋白の強制発現系を用いた関節炎への影響の探索:2018年度の研究において、FPR2 遺伝子発現プラスミドベクターが確立済みである。この遺伝子をアデノウイルスベクターにサブクローニングして、in vivoにおけるgain of functionを試みる。FPR2発現が十分に高いことを確認した後、実験的関節炎を誘導すると同時にRvD1を十分量投与して、関節炎の収束について検討を進める。 課題2.血清アミロイドA蛋白(SAA)とRvD1のFPR2に対する拮抗作用の検討:既報により、FPR2のリガンドとしてSAAも同定されている。SAAは、RvD1とは異なりFPR2に結合すると炎症性サイトカインの発現が誘導されることから、SAAとRvD1は拮抗的に作用している可能性がある。SAAはTh17誘導について重要な役割を果たす急性期炎症性蛋白であるため、FPR2の機能解析においてSAAとRvD1の関係性を明らかにする必要があると考えられる。単球・マクロファージ系を用いたin vitro実験、あるいは炎症局所への単球遊走を検討するin vivo実験によりFPR2の関節炎における役割を明らかにしたい。 SREBP1シグナルが関節炎の病態に及ぼす影響については、ヒト検体を用いた観察研究については一定の結果を得ることができているため、マウス関節炎モデルを用いた検証を予定している。具体的には、SREBP1シグナルの阻害剤を用いた研究や、SREBP1遺伝子欠損マウスに関節炎誘導を試みて、炎症反応増悪の有無とその病態・機序を明らかにする予定である。
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