研究課題
全身性エリテマトーデス(SLE)など自己免疫疾患は免疫応答恒常性の破綻が関与すると考えられているが、その発症機序はいまだ十分明らかにされていない。近年、2本鎖RNA編集酵素であるAdenosine Deaminases Acting on RNA-1(ADAR1)が遺伝学的研究や臨床研究によりSLEの発症に関与することが報告されているが、その機能の詳細は明らかでない。本研究で申請者らはADAR1遺伝子改変マウスのイミキモド誘導SLEモデルを解析してADAR1のT細胞に対する機能について研究を行った。活性化T細胞特異的ADAR1-cKOマウス(OX40-Cre-ADAR1 +/flox(ADAR1-hetero)cKO)のSLEモデルについて野生型マウスとの比較解析により以下のことを明らかにした。1)cKOマウスにおいて脾臓内GC-B細胞の減少および抗dsDNA-IgG抗体の著しい産生低下を認めた。2)OX40-Cre-ADAR1-heterocKOマウスにおいてイミキモド投与後の脾臓内Tfhの細胞数は有意に減少した。3)Tfh分化条件下でOX40-Cre-ADAR1-heterocKOのナイーブCD4+T細胞のTfh分化抑制とともに腎炎の改善を認めた。その機序としてADAR1は分化過程のTfhにおいてI型IFNによって誘導されるアポトーシスを抑制性に制御する可能性が考えられた。以上より申請者らは内因性ADAR1がTfh分化誘導に極めて重要な役割を果たすことを見出し、自己免疫疾患の発症に獲得免疫系が重要である可能性を見出した。今までにSLEの病態においてTfhにおけるADAR1についての研究は世界的に報告されておらず獲得免疫系におけるTfhに対するADAR1の役割の解明を目的とする本研究は、自己免疫疾患の治療開発研究領域において新たな展開が期待される。