研究課題
わが国においてアレルギー疾患の主な原因となっている環境因子としては、スギ花粉とハウスダスト中のダニとが挙げられる。ダニアレルゲンへの曝露がアレルゲンへの感作を引き起こす上で、ダニアレルゲンの持つプロテアーゼ活性が重要であると考えられている。本研究課題ではダニアレルゲンと同じシステインプロテアーゼアレルゲンのファミリーに属するパパインをモデルアレルゲンとして、プロテアーゼアレルゲンへの曝露に対する免疫応答の解析を行っている。当該年度の成果としては、パパイン皮下投与によるアレルギー性皮膚炎症モデルが、他の多くのアレルギー疾患モデルでは中心的役割を担うIL-33に依存しないという発見を契機として、パパイン皮下投与モデルにおいてIL-33の機能を抑制しているとみられる因子を明らかにするとともに、IL-33に代わって同モデルでのT細胞応答を増幅していると考えられる因子を明らかにした。これら両因子についての論文は昨年学術誌に投稿し、査読後に要請された追加実験を終え、現在は再投稿の準備を進めている。一方、パパインの経気道投与によるアレルギー性気道炎症モデルについては、喘息等のアレルギー性気道炎症がアスピリンをはじめとするNSAIDSの服用で増悪する現象のマウスモデルを確立・解析し、同モデルへのIL-33およびIL-33受容体陽性Th2細胞・2型自然リンパ球の関与を示唆する実験結果を発表した。今後は、低用量のアレルゲンを長期間にわたって経皮投与することによりアレルゲン特異的な免疫寛容を誘導する経皮アレルゲン免疫療法モデルの解析を進めるとともに、同モデルを用いて既にアレルギーへの感作が成立している個体への治療効果を検証し、その機序の解明を目指す。また、皮膚のアレルゲンへの曝露という共通のイベントが「感作」と「寛容」というふたつの異なる結果を招くメカニズムを解析してゆく予定である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度より、パパイン皮下投与モデルにおいて皮膚のIL-33と2型自然リンパ球を抑制するとみられる因子の解析、およびアレルゲン免疫療法モデルの解析に焦点を移して計画を進めてきた。同抑制因子については一定のデータが得られたため、昨年学術誌に投稿した後、査読者に要請された実験を終え、現在は再投稿の準備を進めている。また、低用量・長期の経皮アレルゲン投与によるアレルゲン免疫療法モデルでのアレルギー性気道炎症モデルへの予防実験には既に成功しており、これまでに得られた知見を取りまとめて学術誌への投稿準備を進めている。申請当初の計画から予定の変更があったにも関わらず、上記の各項目について一定の成果が得られ、その成果を発表する段階までこぎつけられた事から、「おおむね順調に進展している。」とした。
パパイン皮下投与モデルで解明した皮膚でIL-33の機能を抑制しているとみられる因子については、皮膚と気道で同因子の産生や機能にどのような差異が見られるかを解析するとともに、IL-33が起点となるようなアレルギーモデルへの予防・治療効果を検討する。低用量アレルゲンの長期経皮投与によるアレルゲン免疫療法モデルについては、引き続きすでにアレルゲンへの感作が成立している個体への治療実験を進めるとともに、作用機序の解明を目指す。さらに、スギ花粉を用いた経皮感作・経気道チャレンジによるアレルギーマーチモデルの確立を急ぎ、その機序を解析するとともに、これまでに得られた知見を応用した予防・治療実験を行う。
研究の進行に伴い、当初の研究計画から派生した課題の解析を追加で行った。具体的には前述したパパイン皮下投与モデルにおいて皮膚のIL-33を抑制しているとみられる因子と、パパイン皮下投与モデルでIL-33に代わってT細胞応答を増強している因子の解析をおこない、現在その解析結果を発表するべく学術誌への投稿準備を進めている。次年度使用の具体的な使途および使用計画としては、上記の論文発表に伴う英文校正料や学術誌への掲載料、および学会発表に伴う学会参加費、宿泊費、交通費等が必要となる他、当初の計画になかった上記論文に関する解析を追加で行ったために実施が延期となった、スギ花粉モデル等に関する当初より予定の解析を行うため、実験動物、試薬、器具類等の経費が必要となった。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Allergy.
巻: 74(11) ページ: 2237-2240
10.1111/all.13831