肺炎球菌は市中肺炎の代表的な起炎菌であり、小児や高齢者に髄膜炎などの侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を起こすことから、ワクチンによる予防が重要である。現行の肺炎球菌ワクチンは、90 種以上の血清型の菌のうち一部の血清型の莢膜多糖を抗原としている。そのため、ワクチンに含まれない血清型の菌が増加する「血清型置換」の解決が課題となっている。本研究では、すべての血清型の菌に存在するpneumococcal surface protein A(PspA)を酸化鉄ナノ粒子(iron oxide nanoparticle: IONP)に独自の方法で結合させたPspA-IONP を作成し、マウス免疫モデル系で効果を検討した。 1) PspA-IONPをマウス気道に投与したところ、粘膜および全身でPspA単独よりも高い抗PspA IgG抗体の産生を認め、粘膜ではPspA単独では認められなかったIgA抗体の産生を認め、獲得免疫の成立を確認した。 2) 1)と同じ方法で免疫したマウスに対し、肺炎球菌を気道から感染させたところ、肺での増殖が抑制された。また、同様に免疫したマウスに対し、肺炎球菌を静脈から感染させたところ、脳での増殖が抑制され、生存期間が延びた。 3) 1)と同じ方法で免疫したマウスから採取した血清を静脈投与されたマウスでは、気道から感染させた肺炎球菌の肺での増殖が抑制された。 以上、PspA-IONPの気道粘膜への投与により、粘膜および血中に抗PspA抗体を産生する免疫系が構築され、肺炎球菌の感染に対して、侵入局所感染や播種感染を抑制することが明らかになった。この結果から、PspA-IONPのワクチンとしての有用性が示された。
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