ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の治療において、ウイルス完全排除に対する最も大きな障壁は、生体内において安定的に存在する潜伏感染細胞(リザーバー細胞)である。本研究課題では、潜伏感染細胞の性状をより深く理解するために、独自に樹立した蛍光HIV潜伏感染モデル細胞を用いて、潜伏化/再活性化の分子機序の解明を目的とした。このモデル細胞では、ブロモドメインタンパク質BRD4阻害剤であるJQ-1により効果的に再活性化が誘導された。さらに、BRD4に対するshRNAを導入した潜伏感染モデル細胞では、JQ-1処理によりさらに高いマーカータンパク質の発現誘導が認められた。HIV-1 Tatタンパク質は、LTRからの転写伸長過程を亢進する働きを有するが、HIV-1 Tatタンパク質と相互作用すると報告されているTAF1に対する阻害剤により、潜伏感染細胞の再活性化が認められた。さらに、効率的に再活性化を誘導することが報告されているBRD4阻害剤と併用することにより、相乗効果が認められた。一方、CRISPR/Cas9によるTat欠損HIV-1潜伏感染細胞では、TAF1阻害による再活性化は認められなかった。また、latent infectionとproductive infectionを明確に区別して解析するために、2色の蛍光タンパク質を発現するウイルスベクター(バイカラーHIV)を構築した。このウイルスベクターを種々のヒトT細胞株に感染させたところ、latent infectionが優位な細胞株や、productive infectionが優位な細胞株、あるいはウイルス感染に対して高感受性を示して細胞死が多く見られる細胞株等、多様な傾向が認められた。今年度はこの細胞株間の差異に焦点を当てて解析を進めた。
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