研究課題
自然免疫回避が高病原性クリプトコックス症の感染病態解析の本態か?ならびにIFN-gがCryptococcus gattii株貪食に与える影響は?我々の現在までの研究結果では、高病原性であるC. gattii株のR265株、JP02株肺感染マウスにおける肺局所の乏しい炎症反応が観察され、R265株での検討ではマクロファージによる貪食能がC. neoformans H99株に比較し低下している事象が観察された。さらに検討をすすめ、JP02株でもR265株と同様にJ774細胞による貪食率は5%以下と低率であったことがわかった。また、H99株ではIFN-gの存在下では貪食率が3%程度から22%程度へ上昇したのに対し、C. gattii株ではR265株、JP02株ともにIFN-g添加による貪食率への影響はほとんど認められなかった。一方、貪食能と共に貪食細胞から炎症性サイトカインの放出状況についての検討を行った。方法はH99株、R265株とJ774細胞を共培養し、IFN-gの存在の有無別に培養上清中に放出されるIL-12(IL-12β、p40)をELISAで測定した。H99株においてはIFN-g存在下では無添加に比べIL-12の放出の増加が観察されたが、R265株ではIFN-gを添加してもIL-12の検出量に変化は認めなかった。さらに生菌と死菌別でも同様の検討を行った。H99株では生菌と死菌でのJ774細胞による貪食能の変化はなく、またR265株においても生菌、死菌に対するJ774細胞の貪食能に相違は認められなかった。しかしながら、H99株の生菌を貪食した細胞からは有意にIL-12の放出量が増加したのに対し、R265株では同様の検討でもIL-12産性の増加は認めなかった。
2: おおむね順調に進展している
一部やや遅れた部分もあるが、全体的には予定していたペースで概ね行えていると考える。
以上の結果から、C. neoformans感染モデルとC. gattii感染モデルでの肺病理組織像の違いは、マクロファージの貪食像ならびにそれから放出される炎症性サイトカインの相違、ならびにIFN-gに対する反応性の違いが大きく関与していることが推定された。今後の方針として、引き続きIFN-gなど炎症性サイトカインが高病原性クリプトコックス症の感染防御に与える影響の解析を行う。C. neoformans 感染症においてはIFN-gが感染防御に重要な役割を果たしていることが知られ、感染マウスにIFN-g を投与すると臓器菌数の減少などが観察されるが、C. gattii感染症に対する効果はまだ確立していない。さらに、高病原性クリプトコックス症、とくに難治性とされている脳髄膜炎においてIFN-gが感染病態改善に与える影響を検討し、IDSAガイドラインでも評価が定まっていない中枢神経系C. gattii感染症の治療におけるIFN-gの位置づけを検証する。さらにIL-12、TNF-αなど他のサイトカインの感染防御に果たす役割についても検証する。現在までにクリプトコックス脳髄膜炎モデルの作成を試みている。H99株、R265株、JP02株を経頭蓋的にマウスに接種し、生存率、病理組織学的検討を行った。これらの株を接種したマウスは接種後7日目から死亡する個体が観察され、14日-21日後までに約80-90%が死亡し、病理組織学的検討では、いずれも脳髄膜炎に矛盾しない病理像が観察された。これらの結果から、今後の検討に適切なマウスモデルであると考えられた。今後は本モデルを使用し、IFN-g投与の有無によるマウスモデルの生存率の検討や、臓器菌数の検討、ならびに引き続きJ774での貪食によるTNF-αなど他の炎症性サイトカインの発現について検討を進める予定である。
本年度は消耗品の使用が少なかったことから消耗品費が全体的に低くなったこと、海外の学会出席が業務の都合で予定通りにできなかったことから旅費が抑えられたこと、また人件費も予定より少なくてすんだことが原因と考える。次年度は研究に伴い消耗品購入が増加するものと考えており、また学会についても、海外の学会に演題を応募しているものもあり、本年度は旅費が計上されるものと考えている。
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