結核菌やMycobacterium avium-intracellulare complex(MAC)を含む病原性抗酸菌は、好中球やマクロファージなどの自然免疫細胞へ貪食された後も、食胞へのリソソームの融合(食胞成熟)を阻害することで、細胞内寄生する。近年申請者は、この機構に抗酸菌の細胞壁成分であるリポアラビノマンナン(LAM)とスフィンゴ糖脂質であるラクトシルセラミド(LacCer)により形成されるマイクロドメインとの会合が重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。本年度は、前年度からの研究をさらに展開し、上記に示したスフィンゴ脂質代謝酵素群の局在ならびにその活性を中心に解析した。超解像顕微鏡(STED顕微鏡)を用いて、好中球へ非病原性抗酸菌由来PILAMコートビーズ、あるいは、病原性抗酸菌由来ManLAMコートビーズを貪食させた後の食胞を観察した結果、PILAMコートビーズを含む食胞においては、2種類のスフィンゴ脂質代謝酵素がLacCerマイクロドメインへ集積し共局在していたのに対して、ManLAMコートビーズを含む食胞では、それら分子の集積が認められなかった。また、細胞へ蛍光セラミドを取り込ませることで、スフィンゴ脂質代謝酵素の活性を解析した。その結果、PILAMコートビーズを取り込ませた細胞ではスフィンゴ脂質代謝酵素により産生される生理活性脂質の有意な上昇が認められたのに対して、ManLAMコートビーズを取り込ませた細胞ではそのような上昇は認められなかった。これらの結果から、食胞膜においてLacCerマイクロドメインとそのドメインとの会合を駆動力とするスフィンゴ脂質代謝酵素の活性が食胞成熟に必要であることが分かった。今後さらなるメカニズムの解明を進めていきたい。
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