ムコ多糖症II型(MPSIIまたはハンター症候群)はライソゾーム病の一疾患で、ライソゾーム加水分解酵素イズロネート-2-スルファターゼ(IDS)の遺伝的欠損により引き起こされる。患者細胞内ではIDS活性低下により全身の臓器に未分解のムコ多糖などが蓄積し、脳を含む様々な病態が引き起こされる。この疾患の脳障害に有効性を示す新規治療法として、シャペロン療法の基礎開発研究を行った。低分子化合物を用いるシャペロン療法は、標的変異酵素蛋白質に親和性を持つシャペロン化合物を細胞内で作用させることで、変異酵素蛋白質の構造を安定化し、分解を抑制することで、酵素活性を復元することが可能となる。また、従来のシャペロン化合物の多くは、基質に対する競合阻害活性を有する基質類似化合物が開発されてきたが、本課題では、阻害活性を示さない新しいタイプのシャペロン化合物の開発も同時に進めた。試験管内試験によるスクリーニングの結果、当初の目的通り、基質競合阻害活性を示すシャペロン候補化合物と、阻害活性を示さない候補化合物が複数同定された。これらの化合物は、濃度依存的阻害活性試験およびIDS酵素安定化活性試験により、それぞれ有効性が認められた。さらに、試験管試験で高い効果を示した複数の化合物について、MPSII患者で同定されているヒト変異IDS cDNA発現細胞系を用い、変異酵素活性に対する効果を検討し、いくつかの変異型に対する酵素活性復元効果を明らかにした。
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