研究課題/領域番号 |
17K10052
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
金本 聡自 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 講師 (90611913)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ムコ多糖症 / ライソゾーム病 / 小胞体 / 小胞体関連分解 / イズロン酸-2-スルファターゼ |
研究実績の概要 |
ムコ多糖症はライソゾーム病の一種として知られ、ムコ多糖を分解するライソゾーム酵素が欠損あるいは機能低下することで全身にムコ多糖が蓄積することで発症する。本研究課題では、日本を含む東アジアにおいて発症事例の多いⅡ型ムコ多糖症(ハンター症候群)について研究を行った。 ハンター症候群の原因遺伝子はイズロン酸-2-スルファターゼをコードする遺伝子であることが分かっており、これまでに多数の変異遺伝子型が既に同定されている。 イズロン酸-2-スルファターゼは、生合成の際に小胞体にて翻訳後修飾を受け、ゴルジ体を経由してライソゾームへ運搬されると考えられている。ハンター症候群の発症要因の一つとして、変異型イズロン酸-2-スルファターゼの発現が小胞体機能不全を引き起こし、そのために変異型酵素が分解されることで酵素の欠損もしくは機能低下を招き、発症するのではないかと仮説を立て、その検証を行った。 平成29年度は既に同定されている変異型のうち、症状が比較的穏やかなマイルド型と、症状が重度に現れるシビア型について、それぞれ出現頻度の高い変異型を選択して解析した。 イズロン酸-2-スルファターゼのプロセシングパターンについてウェスタンブロット解析したところ、野生型では複数種のバンドパターンが検出されたが、変異型では主に一本のバンドしか検出されなかった。野生型と変異型の細胞内局在を比較すると、野生型は主にライソゾームに局在するのに対し、変異型は主に小胞体に局在していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度ではイズロン酸-2-スルファターゼの生化学的解析を行った。野生型のイズロン酸-2-スルファターゼと変異型のタンパク質の性状を解析するためにウェスタンブロッティング法を用いて解析した。野生型では、未修飾で前駆体型と思われる70kDaサイズのバンド以外に、糖鎖修飾されたと考えられる90kDaサイズのバンドと、さらにプロセシングを受けて成熟型となったと考えられる50kDaおよび40kDaサイズのバンドが検出された。 一方で、変異型の方は、マイルド型とシビア型ともに前駆体型の70kDaサイズのバンドのみ検出され、その他のサイズのバンドは検出されなかったことから、プロセシングに障害が生じていることが示唆された。ただし、マイルド型の1亜型については、50kDaと40kDaのバンドが少量のみ検出されるものもあった。 細胞内での輸送経路を明らかにする目的で細胞内局在を検討したところ、野生型イズロン酸-2-スルファターゼは、小胞体とゴルジ体に一部存在しているものもあるが、多くはライソゾームに局在することが分かった。一方、変異型イズロン酸-2-スルファターゼは、ほぼ全てが小胞体に局在しており、cis-ゴルジやライソゾームに局在するものはほとんどなかった。このことから、変異型は修飾不全に伴い輸送障害を受け、小胞体内に留まっているものと考えられた。 イズロン酸-2-スルファターゼをプロセシングする分子の同定のために、イズロン酸-2-スルファターゼに対する免疫沈降を行い免疫沈降サンプルを精製した。現在質量分析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、イズロン酸-2-スルファターゼの生化学的性状解析を行う。具体的には翻訳修飾後のタンパク質安定性について検討するとともに、変異型タンパク質の酵素活性について調べる。また、変異型イズロン酸-2-スルファターゼがプロテアソーム系もしくはライソゾーム系(あるいはオートファジー)で分解を受ける可能性について、プロテアソーム阻害剤やライソゾーム阻害剤を用いて検討する。 酵素活性に影響を与える要因の検討として、イズロン酸-2-スルファターゼの立体構造解析も進める。 さらに、ハンター症候群の新たな治療薬開発の目的で薬剤スクリーニングの系を立ち上げる。変異型イズロン酸-2-スルファターゼはライソゾームへの移行が認められないので、変異型イズロン酸-2-スルファターゼをGreen Fluorescent Protein等の蛍光タンパク質標識した融合タンパク質を作成し、リアルタイムで細胞内局在を検出できる系を作出する。化合物ライブラリーを用いて、薬剤処理によって細胞内局在が変化する化合物を見出す。
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