ムコ多糖症はライソゾーム病の一種として知られ、ムコ多糖を分解するライソゾーム酵素が欠損あるいは機能低下することで全身にムコ多糖が蓄積することで発症する。本研究課題では、日本を含む東アジアにおいて発症事例の多いⅡ型ムコ多糖症(ハンター症候群)について研究を行った。 ハンター症候群の原因遺伝子はイズロン酸-2-スルファターゼをコードする遺伝子であることが分かっており、これまでに多数の変異遺伝子型が既に同定されている。イズロン酸-2-スルファターゼは、生合成の際に小胞体にて翻訳後修飾を受け、ゴルジ体を経由してライソゾームへ運搬されると考えられている。ハンター症候群の発症要因の一つとして、変異型イズロン酸-2-スルファターゼの発現が小胞体機能不全を引き起こし、そのために変異型酵素が分解されることで酵素の欠損もしくは機能低下を招き、発症するのではないかと仮説を立て、その検証を行った。 イズロン酸-2-スルファターゼの野生型と変異型のプロセシングパターンを解析した。野生型では複数種のバンドパターンが検出されたが、変異型では主に一本のバンドしか検出されなかった。野生型と変異型の細胞内局在を比較すると、野生型は主にライソゾームに局在するのに対し、変異型は主に小胞体に局在していた。タンパク質の安定性解析から、変異型イズロン酸-2-スルファターゼは翻訳後前駆体のまま速やかに分解を受け、成熟型はほとんど産生されなかった。また、変異型はプロテアソーム系によって分解を受けていることを明らかにした。さらに、変異型イズロン酸-2-スルファターゼはE3ユビキチンリガーゼであるHRD1を介してプロテアソーム系で分解を受けていることが分かった。変異型イズロン酸-2-スルファターゼの酵素活性は野生型に比べるとほとんど活性を持たないが、HRD1をノックダウンすると変異型の酵素活性が有意に増加することが分かった。
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