研究課題/領域番号 |
17K10053
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
伊達木 澄人 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (70462801)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高コレステロール血症 |
研究実績の概要 |
A)日本人におけるシトステロール高値例に対するABCG5/ABCG8遺伝子解析 現在までわれわれは原因不明の高コレステロール血症、ならびに血清シトステロール高値の小児例計21例を対象にシトステロール血症の原因遺伝子ABCG5/ABCG8遺伝子解析を行い、ABCG5変異例12例(homo1例、compound hetero 8例、hetero3例)、ABCG8変異例5例(compound hetero 4例、hetero1例), ABCG5, ABCG8の混合ヘテロ変異1例を同定した(計18例)。変異陰性例3例のうち、LDLR遺伝子異常症(hetero)を1例同定した。以上より、高コレステロール血症かつシトステロール高値例のうち、85.7%にABCG5, ABCG8のいずれかの異常を同定した。これら18家系のABCG5/ABCG8変異陽性者における詳細な臨床的、分子遺伝学的解析の結果から以下のことを明らかにした。(1)p.R389H, p.R419H (ABCG5)とp.I419K(ABCG8)は、日本人におけるHot spot変異である。(2)ホモ変異症例では12例中10例に黄色腫を認めた。ヘテロ症例はすべて無症候性であった。(3) 同じ変異例でも重篤な合併症を有する例から高コレステロール血症のみの軽症例まで臨床像には差が認められる。(4) 乳幼児~小児例では、ヘテロ接合性変異症例でも著明な高コレステロール血症を呈する。 (5) 植物ステロール摂取が少ない乳児例では、高コレステロール血症を認めても、血清シトステロール値は高値にならない。 B)小児高コレステロール血症患者におけるシトステロール血症の頻度 長崎県において28例の無症候性高コレステロール血症小児患者(男:女=7:21、年齢3か月~14歳)において血清シトステロール値を測定し、1例に高値例を同定した。遺伝子解析の結果、ABCG5ヘテロ異常症であることが判明した。異常の結果は無症候性の小児高コレステロール血症患者におけるシトステロール血症の頻度は低いこと(3.5%)が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
シトステロール血症における遺伝型―表現型の解析を行うために十分な患者解析数に至っている。今後も継続して検体の収集、解析を続け、さらに臨床像の検討、遺伝型との関連性について検討を行いたい。 当初、特定地域の健診データ、残余検体を用いて、一般成人におけるシトステロール血症の頻度を明らかにすることを計画していたが、高コレステロール血症を有する症例が極めて少なかったこと、残余血清が十分なかったことから現在解析は保留となっている。 今後、若年性冠動脈疾患、成人高コレステロール血症の検体を集積し、ABCG5/ABCG8ヘテロ異常症が動脈硬化、心筋梗塞の発症リスクに関与するかを明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
1.シトステロール血症におけるABCG5/ABCG8遺伝子解析 現在の変異陽性例の臨床像、遺伝型をまとめて、論文作成の準備を行っている。また学会、研究会で積極的に現在までの成果を公表し、さらなる検体の収集、解析を行う。 2.小児無症候性高コレステロール血症におけるABCG5/ABCG8遺伝子異常の頻度 今後も継続して無症候性の高コレステロール血症小児患者の検体収集、解析を継続する。無症候性の高コレステロール血症の中には、早期から治療、管理が必要な家族性高コレステロール血症(ヘテロ)もこの中に含まれていると考えられる。今後さらなる解析を進め、小児高コレステロール血症の遺伝学的背景を明らかにしたい。 3.若年性冠動脈疾患におけるシトステロール血症の影響の検討 血清シトステロール値の測定、ABCG5/ABCG8を含めた網羅的遺伝子解析を行う。これにより、同集団におけるABCG5/ABCG8遺伝子異常の関与の有無、頻度、ならびにシトステロール血症の遺伝的背景を明らかにする。若年性心筋梗塞はその頻度が稀であるため、対照検体数は、多く得られない可能性がある。長崎県下の成人患者を広く集めることができるよう、当院循環器内科と共同研究のうえ、研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、特定地域の健診データ、残余検体を用いて、一般成人におけるシトステロール血症の頻度を明らかにすることを計画していたが、高コレステロール血症を有する症例が極めて少なかったこと、残余血清が十分なかったことから現在解析は保留となった。 そのため解析のための費用として挙げていた経費を次年度へ繰り越すこととなった。今後、対象とする症例を増やすとともに、シトステロール高値だが変異陰性例に対してもゲノムコピー数解析やWhole exome sequencingを行う予定である。
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