研究課題/領域番号 |
17K10062
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
横山 和明 帝京大学, 薬学部, 教授 (50246021)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ペルオキシソーム病 / 先天代謝異常症 / 副腎白質ジストロフィー / 脂質メタボローム / リピドミクス / スフィンゴ糖脂質の網羅的解析 / リン脂質の網羅的解析 / 分子種分析 |
研究実績の概要 |
ペルオキシソーム病の副腎白質ジストロフィーではABCD1遺伝子の変異に伴い極長鎖脂肪酸レベルが上昇する。1患者サンプルのリン脂質の網羅的解析、2極長鎖脂肪酸含有リン脂質の合成酵素の同定、3患者サンプルのスフィンゴ糖脂質の網羅的解析の3つについて解析することにより、発症機構の解明と発症のマーカーを探索する事を目的とする。 患者サンプルのリン脂質の網羅的解析では、患者試料に先立ちモデル動物であるABCD1ノックアウトマウスの脳と、モデル細胞としてABCD1遺伝子をノックアウトしたHeLa細胞を材料としてリン脂質の網羅的解析を行った。手法としてはLC-MSのMRMモードを用いて分子種ごとの定量を行い、分子量が大きい分子種はEPIモードを用いた構造解析で脂肪酸の種類と結合位置を特定した。その結果、どちらにおいても極長鎖脂肪酸を含有するホスファチジルコリンとホスファチジルエタノ-ルアミンなどのリン脂質分子種が数十種検出された。これらの多くは、グリセロール1位に飽和または1不飽和の極長鎖脂肪酸を有していた。さらにスフィンゴミエリンと代謝中間体であるアシルCoAについて、LC-MSで網羅的に測定する解析系を構築した。 極長鎖脂肪酸含有リン脂質の合成酵素の同定では、上記のように極長鎖脂肪酸含有リン脂質の発現が確認されたABCD1ノックアウトHeLa細胞を用いて、リン脂質のグリセロール1位に極長鎖脂肪酸を導入する酵素の候補として、各種アシルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を定量的RT-PCR法で調べた。発現している酵素について順次RNAi法を用いてノックダウンし、細胞のリン脂質を網羅的にメタボローム解析し、極長鎖脂肪酸含有分子種の変動を解析中である。患者サンプルのスフィンゴ糖脂質の網羅的解析では、患者試料に先立ちマウス脳とABCD1ノックアウトHeLa細胞を用いて、MRM法により定量解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1患者サンプルのリン脂質の網羅的解析は、ほぼ予定通り進行中である。極長鎖脂肪酸含有リン脂質分子種に加え、網羅的に解析したことにより、患者に特有の分子種が存在することが示唆されつつある。 2極長鎖脂肪酸含有リン脂質の合成酵素の同定については、主計画はほぼ予定通り進行中である。ABCD1遺伝子ノックアウト細胞で、各種アシルトランスフェラーゼをRNAi法を用いて順次ノックダウンし、細胞のリン脂質をLS-MS/MSを用いて網羅的に測定した結果、極長鎖脂肪酸含有リン脂質分子種が減少するものがあることを見出した。これをもとにABCD1とアシルトランスフェラーゼの2重欠損株の作製をほぼ完了した。副計画である極長鎖脂肪酸のアシルCoA合成酵素については、前述のアシルトランスフェラーゼを優先したため、あまり進行していない。極長鎖脂肪酸含有リン脂質合成酵素を明らかにする。 3患者サンプルのスフィンゴ糖脂質の網羅的解析では、若干遅れている。患者サンプルに先立ちマウス脳とABCD1遺伝子ノックアウト細胞の解析を実施中である。ただしこれら天然由来サンプルの網羅的解析を通じて、膨大なデータの処理に専用の解析用ソフトウェアが必要であることが判明した。このソフトウェア開発に時間を要してしまった。
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今後の研究の推進方策 |
1患者サンプルのリン脂質の網羅的解析は、引き続き実施していく。 2極長鎖脂肪酸含有リン脂質の合成酵素の同定については、ABCD1とアシルトランスフェラーゼの2重欠損株の脂質代謝を詳細に解析すること、さらにその酵素の強制発現による機能解析により、極長鎖脂肪酸含有リン脂質合成酵素を明らかにしていく。 3患者サンプルのスフィンゴ糖脂質の網羅的解析では、解析用ソフトウェアが間もなく完成する見通しであり、これを活用して患者サンプルの測定を行なっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
専用解析ソフトウェのの作成など、一部進捗が遅れた項目があり、その部分の支出を翌年度に実施することとなった。
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